最近クロス製の萬年筆を使う事がなくなった。修理以外で最後に使ったのはいつだったか覚えていない。タウンゼントだったはずなのだが・・・
以前はクロスの萬年筆はPelikanがOEMで作っていると言われていた。少なくともインクは容器も成分もまったく同じで、Fountainpen Inks a Samplerのグレッグ氏も【まったく同じものだからテスト結果は省略・・・】とか書いてあった記憶がある。
ところが今回アポジーを見て、流石にPelikanが作っているという感じはまったくしない。コンバーター込み、インク無しで全重量42.7g、胴体24.7g+キャップ18g・・・かなり重い!拙者が使っているM800がインク込みで30g弱。この金属の塊のような萬年筆を落としたらペン先は曲がるのは確実。しかもクロスのペン先は18Kで柔い。過去に何度も出てきている表現だが、柔いのと柔らかいのとはニュアンスが違う。
柔いというのは、素材自他に粘りが無く、力を加えると加え終わったときの形状で固定されること。すなわち粘土を指で押すような感覚で曲がってしまう。
これは実は製造上は非常に都合が良い。あまり戻りを計算しなくてもいったん曲げれば形状は固定する。ところが落としたり、強筆圧をかけたりするとすぐに形状がかわり、引っ掛かりが出てくる。そのために柔い素材では大型ニブは作れず、アポジーのような小型ニブにしているケースが多い。一時期Omasが柔い大型ニブを使っていた事があったが、またたくまに姿を消した。
それにしても見事に曲がったものじゃ。しかも先端部をよく見ると研磨したような痕がある。曲がったままで何とか書けるようにしたいといじったのか、元々なのかはわからないが・・・ 左がペン芯。なんの捻りも無いペン芯じゃな。もちろん自社生産ではなくペン先メーカーに依頼して汎用品で合う物を選んだのであろう。なんとなく100個で10円の材料費・・・みたいなペン芯だなぁ。こういうのを見てから国産のペン芯を見ると心が洗われるような気がする。ペン芯から【意志】が読み取れるのじゃ。
ひん曲がったペン先を元に戻す場合は、ヤットコで伸ばした後、金の表面を削って段差解消をする。ところがこのアポジーのように銀色の鍍金が施されているペン先は表面研磨が出来ない(鍍金が剥がれて金色ペン先になる) 。
そこで画像のようなヤットコを東急ハンズで購入し、掴む部分を5000番の耐水ペーパーで時間をかけて研磨した。従って掴む部分は鏡面に近い状態!これでつかみ傷の確率は小さくなる。今回は盛り上がった所をヤットコの腹でそーっと押さえただけで曲がりは直った。これもペン先が柔いおかげなのだが微調整には難儀する。
真っ直ぐに伸ばしてから調整が終わるまでに2時間を要した。その間、ずっと研磨と試し書き。どうやらこのペン芯は1度抜くと緩くなり、再度押し込んでもペン先がグラグラするように思う。そこでペン先の根元にアロンアルファを塗って太らせ、それにペン芯を添えて首軸に突っ込んだところ、以前よりはマシになった。