今回の依頼品は懐かしいMERCEDESの萬年筆。独逸マイナーブランド通なら外せない逸品。拙者は過去に所有したのは2本、修理したのが3本程度じゃ。意識的に珍しい物を捜していないと遭遇しない萬年筆で、拙者は聞いたことの無いメーカーの萬年筆ばかりを収集していた時期に、車のメルセデスと関係があるに違いないと考えて購入した記憶がある。
独逸マイナーブランドにありがちな非常に柔らかいペン先とは多少ニュアンスが違うペン先が付いている。肉薄で柔らかさを演出したうえで、絞りで堅さを作り出したような感じ。小さなペン先を採用することで使用する金の量を極限まで少なくして作ろうとしたのかもしれない。
並べて比較したわけではないがクリップなど、OSMIA-FaberCastellと良く似ている。全てのパーツを自社生産するとコスト高なので、外部から入手可能なものは外部調達していたのではないかな?
せいいっぱいがんばってみましたが、これが独逸のデザイナーの限界です・・・とでもいいたげな、丸っこくはあるがどこか無骨なデザインに萌える!
おまえそれは無いだろう! と思わずツッコミを入れたくなるのはインク窓にネジが切ってあること。あまり意識して見ているわけではないが、こんなの初めて・・・のような気がする。一番折れやすい部分にネジを切るなんてありえない!ただそういうのが独逸マイナーブランドのおもしろさでもある。
言い忘れたが、これは秋田のニ右衛門半を目指す【赤ずきん半】氏からの修理要望じゃ。さもありなん・・・
ペン先は幅が狭く、曲げもきついのでタッチは柔らかくはない。また刻印も深くしっかりと入っている。一般的に刻印が深いとペン先は硬くなると聞いたことがある。Pilotの現行ニブもフォルカンには模様が少ないが、それも柔らかさを保つためなのかもしれない。
修理依頼が来たのは、インクがすぐに出なくなってしまうから。さてはペン芯とペン先が離れているのか?と凝視してみたが、そちらは問題はなさそう。多少コテ研ぎ風になっている程度。
はて困ったなと完全分解していろいろチェックしているときに見つけたのがコレ!
ペン芯の最後部がコキンと折れている。一度は【ああ、インクフローを良くするために最後部をカットしたのね・・・】と見過ごした。実は長崎のマツヤ万年筆病院で購入したM800のペン芯の最後部が少しだけ斜めにカットされており、それでインクフローを良くしているのを見ていたのでそれが脳裏に残っていた。
ところがよく見ると、空気溝もインク溝も割れている。これでは毛細管現象がほとんど働かず、空気とインクの交換がスムーズに行われないのではないか?
そこで部品箱にあった古いペン芯の中から、同じ太さのものを捜したのだが、山のようにあっても同じ太さというのはほとんど無い。かろうじて画像下部のものが同じ太さで、構造も似ているので再利用することにした。
ペン芯先端部の斜面が鈍角すぎて普通の位置にペン芯をセットすると上から見てペン先からペン芯がはみ出すので斜面を削ってはみ出さないように加工した。【見栄え第一、書き味第二】を最近標榜し始めた拙者にとって、ペン芯がペン先からはみ出すのは許しがたいことなのでな。