今回の依頼品は先日に引き続き、独逸マーナーブランドのOSMIA。今回は非常に数が市場に出ていたと思われる984というモデル。拙者もこれまでに5本以上は入手した記憶があるが、現在手元には一本も無い。
やはり安価な普及品は材料や工程に手抜きが見られ、当時の独逸の高級ラインと比べると1ランクは落ちる・・・ただし、書き味が落ちるわけではないところが魅力ではある。
これまでに何人かの調整師や修理人の手を経由しているが、調子が良くなったり悪くなったり・・・を繰り返して拙者のところへ流れ着いたもの。
実は調整する人は、それぞれ好きな形状が異なり、それに従って調整するので、調整師を変えるとその度に方向性の違う調整となる。
従って一本の万年筆の調整師は、一度決めたら変えないのがベストじゃよ。
この画像からはスリットがかなり密着しているのがわかる。これによって書き出しの掠れが想定される。
こちらは横顔。ペン先の位置やペン先とペン芯が離れるといった機構上のトラブルは発生していない。
ただペンポイントの形状がオリジナルに近い形状に研ぎ直されているため、スイートスポットが無い。従って依頼人の筆記角度では若干書きにくいと感じるであろう。
書き味がザラザラする最大の原因はこちらの左右の段差。向かって左が下がっているので筆記時に持った手の右側から左下への線を書く時に、ガリガリと引っ掛かってしまう。
これは書き味をパーソナライズしようという研磨ではなく、発売当時の形状に戻しつつ書き味もそこそこに・・・といって研磨した状態から、調整戻りで段差が出来たのであろう。
ほんのちょっとしたデッパリなので、これだけ柔らかいペン先であれば、通常はペンポイントを紙に置いた段階で段差は解消するはず。にも関わらずガリガリと引っ掛かるのは・・・
おそらくは依頼人がペン先を紙に下ろしたときの状態でスイートスポットがないこと、また、その状態がたまたまペンポイントの最もおいしくない場所で有ったと想定される。
それならば対策は簡単でスイートスポットを入れれば問題は解消する。ただし、それに先だって、もう少しインクフローを稼げるような調整にしておこう。
インクフローが潤沢であれば、今後多少の段差が調整戻りで発生しても、その症状を著しく緩和してくれる。
こちらが調整後のペン先、スリットはほんの少しだけ開き、ペンポイントは筆記角度の合わせて研磨した。いわゆるスイートスポットを依頼人の筆記角度に合わせて削り込んだ。
この結果、書き出しの掠れやガリガリ感は解消し、Vintageの独逸マイナーブランドらしい感触が復活した。
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間