先週金曜日の記事とほとんど同じ調整報告。前回の関西地区大会でお預かりし、土曜日の関西地区大会でどちらも依頼者の手元に戻っていった。
最近、EFの研ぎに凝っており、自分用に調整する萬年筆のほとんどがPelikanのEF。従って生贄でM400系が飛び込んでくるのは、渡りに船というか飛んで火に入る夏の虫じゃ。
金曜日のM405は青軸だったが、今回は黒軸。天冠は新しい総銀色の金属風味。実はM405とM805に限っては、拙者は以前の銀色Pelikanの通称プリント天冠の方が好きで、日常使用しているM805(タコスペ・コレドM)とM405(タコスペ・超不細工)の天冠はそちらに交換してある。その2本はお気に入りなので萬年筆研究会【WAGNER】には持ち込まないようにしている。
今回のペン先もEFにしては出来が良い。刻印のちょうど真ん中ではないが、ペンポイントの中心に切り割りがある。ペンポイントも球形で実に良い感じ。最近、Pelikanの精度が上がったのか?あるいはたまたま2本続けて状態が良かったのか?
というところで気付いたのだが、ペン先と首軸の関係が出荷状態ではない。あきらかにいじってある。どうやら拙者のペントレからお嫁にいったものが、ペン先改造として舞い戻ってきたらしい。どうりでスリットの状態など完璧なわけじゃ・・・
金曜日のM405と違うのはペンポイントの横顔。ペンポイントは球形ではなく、紙当たりの部分がやや平たくなっているが、調整した形跡は無い。
パイロット社の萬年筆製造プロセスを紹介した映像では、最後にペン先を研いでいる。当然その研いでいる人の癖がペンポイントに転写されるはずだが、ムラは一切感じられない。恐ろしいばかりの均一さ。
それに比して、Pelikanでは、かなり出荷時の個体差がある。しかも本国では一般的に店頭での萬年筆の試し書きはさせないと、フルハルターのHPで見た記憶がある。であるならばペンクリのニーズはあるだろうになぁ・・・それとも力ずくで慣らしていくのか?
タコスペ・超不細工調整は、まずは背中側を曲面に研ぐ。次に腹をほとんど落とす。そして残った部分に少し丸みを加えて引っ掛かりを取り除いた後、細かくエッジの面取りを15000番のラッピングフィルムを用いて実施。その後、表面を5000番の耐水ペーパーで再度荒らしてから、仕上げはTWSBIの梱包材用スポンジの上に敷いた10000番のラッピングフィルムの上で字を書きながら細かいエッジを落とす。
そこまでで調整の半分が終了。すなわち表書き用の調整が終了したことになる。次は裏書き用の調整。こちらは多少手間がかかるし、それほど使用頻度が高いわけではないので、自分用の調整では省いている。
実はタコスペ・超不細工加工には背開き状態のペンポイントの方が裏書きには良い結果になる。なぜなら背開きは、裏書き時には【腹開き】になる。従って
タコスペ・超不細工を望むなら背開きは直さない方が結果は良くなる。
今回のM405 黒軸はかなりの背開きだったので、非常にやりやすかった。
こちらが横顔。研磨のコツは背中側を曲面で落とすこと。この曲面の部分の面積が広いほど(筆圧をかけなければ)ぬらぬらの書き味になる。筆圧をかければインクフローは少なくなり、やがてはインクは出なくなる。まさに強筆圧矯正装置のようじゃ。
もうひとつは、腹を落とすこと。何を狙っているかといえば、字の幅を薄くしてEFの字幅を出すため。最近のPelikanは丸研ぎのため、上下左右が同じ字幅になる。これを上下の字幅を狭くした、極細スタブを狙っているのが
タコスペ・超不細工ということ。
とにかく細い字が好きなら、UEFとか細美研ぎをお薦めする。それらは良い書き味という評価項目を排除して徹底的に細い字にこだわった研ぎ。これらの研ぎはまさにプロの技。
それに対して
タコスペ・超不細工の書き味は、表書きであっても通常のEFとは比べものにならないほど良い。滑らかという表現は妥当ではないが、書き味とインクフローと細いStub風の字幅あいまって、細字嫌いの拙者を虜にしてしまった。
今後、この
タコスペ・超不細工加工を萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリや生贄で【調整依頼】として受け付けることはしない ので、実質的にこれが最後の生贄となろう。
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間