2012年05月09日

水曜日の調整報告 【 Pelikan 400NN 14C-OM ひっかかり 】

01今回の依頼品はPelikan 400NNじゃ。このモデルが日本のPelikanファン層を作り出し、かつまた、#500として復刻したことによって現在のPelikan社が成り立っているのだと思う。

1973年〜1978年に、当時のペリカンの関係会社だったメルツ&クレルが、日本市場向けに400NNの復刻版を製造した。その成功に目を付けたPelikanが自社で回転吸入式設備を再構築して#500(海外ではM400?)を市場投入した際には、ベースモデルは400NNではなく400となった。


02キャップにはLindeのロゴが刻まれている。おそらくは独逸のガス会社であろう。そのLindeが発電所建設の竣工記念などで大量に配布したのではないかな?

こういう企業ロゴ入りばかりを集めている人には会ったことはないが、必ずいらっしゃるはず。見せて欲しいものじゃ。実は拙者も大好きだがコレクションはしていない。

0304ペン先は見事なオブリーク。多少の段差はあるが、筆圧をかければペンポイントは自在に動くので段差はそれほど問題とはならない。

ペンポイントの切れ込みの両側のエッジの丸めがうまくいっていないのが引っ掛かる原因と結論づけた。またオブリークを普通の形状にするのではなく、普通に持って書けば、オブリークを意識することなく、【普通の字形】が得られるように研ぐことにした。上から見ても変化はほとんどわからないが、書いてみると・・・まったく違う書き味に変身する!というのが【タコスペ・一番捻り】。久しぶりに挑戦してみることにした。

0506横顔には破綻は無い。このすさまじい猫背ぶりが良くも悪くもPelikan 400NNの書き味に大きな影響を与えている。

このペン先の猫背具合に合わせるようにペン芯を作っていたと考えられる。 こんな複雑な形状をエボナイトからどうやって削りだしたのであろうか?またペン先の曲がりの個体差との折り合いをどう付けたのかなぁ?

ペン先とペン芯が離れた個体 をに出会う見る度に先人の苦労に目頭が熱くなる・・・ 


07もう一つの問題はピストンがかなりに硬いこと。依頼書には書かれていなかったが、非力の人なら吸入に気が滅入るほど硬い。

専用工具で分解してみると、弁が少し毛羽立ってきている。放置するとダマになった樹脂のが軸壁を削ってインクが弁の後ろに回るようになる。その前に弁は交換しておいた方が良い。

08以前ならピストン交換に数千円かかったのだが、最近は弁だけが入手可能になった。古い弁を力ずくで取り外し、新しい弁を押し込めば完了!

このアセンブル作業はどんなに不器用な人にでも出来るが、吸入機構を胴軸から外すのに技がいる。拙者は専用工具を持っているが、それを使ってもうまく外せる人は5人にひとりくらい。たいていは尻軸機構の内部を傷だらけにしてしまう。日本の技術を支える蒲田の熟練工のような微妙な力加減が成功のコツ!小さいころから熟練工に憧れていた拙者にとっては、もっとも楽しい作業じゃ。

0910こちらが引っ掛かりを取ってから 【タコスペ・一番捻り】 に加工したもの。実は上から見ても横から見てもほとんど変化がわからない。立体で把握しないと区別はつかないのだが、書いてみればその変化は歴然としている。

オブリークを普通の書き方で書けない人がいる。それは書くときにペン先が右側に倒れる人。それ以外の書き方であれば 【タコスペ・一番捻り】 によって普通筆記が出来る。無理に左に捻って持つ必要はない。この研ぎの特徴はペンポイントのカーブを徹底的の丸めること。しかも書き出しで紙に当たるのは切り割り部分だけで、書き出せば字幅が太くなる。

オブリークは書きにくいが、オークションでなんとなく入手してしまった。そして今後お嫁に出す可能性も高いので、ペン先の刻印とペンポイントの形状に矛盾は出したくない・・・という人にお勧めの調整。普通筆記以外にオブリークの持ち方をして書いても書き味は秀逸なのじゃ。


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整