水曜日の調整報告 【 Parker ソネット・ラック ファイアーダンス 18K-XF 生贄 】
本日紹介するのは、生贄としてお預かりしたParker Sonnet。ペン先の柔らかさには誰でもが驚かされるが、それ以上に驚くのがペン先の乾きやすさ。はっきり言って萬年筆としては使えない代物。キャップを締めても外気が自由に出入りできるという画期的（？）な機構により、書き出しの色が異様に濃くなってしまう。また書き出せないことも多い。さらにはカートリッジのインクの減りが異常に早い・・・など
とはいえペン先の柔らかさの魅力には抗えないので、空気穴を全て埋めてしまうという荒技を施して使っていた。ペンケースに寝かせておく分には乾きはそれほどでもないが、キャップを上にして立てておくと書き出しでペンを折りたい衝動に駆られることも多かった。
現行のソネットはどうなんだろう？キャップを口にくわえて空気を吹き込むと、シューという音を立てて勢いよく天冠の隙間から空気が出て行けば改善はされていない。
こちらがペン先の拡大画像。ペン先の金が薄いのでメチャクチャ柔らかい筆記感がある。店頭で試し書きした人は、もし萬年筆好きの店員さんに理由を説明した上で奨められたら高い確率で堕ちてしまうだろう。
この柔らかさを出すために製造工程を工夫したのか、コスト削減するために徹底的に工程を簡素化し、材料の金の量を減らしたらこうなったのかはわからない。全盛期のParkerなら当然前者なのだが・・・・
美しさに惹かれ、書き味で堕ち、乾燥に辟易・・・を繰り返しながら、買ったり手放したりを繰り返している。離婚7回のうち6回が同じ相手という藤圭子みたい（ちなみに高校生の時には守る会のメンバー）な存在かな？
通常、ペン先はハート穴あたりからペンポイントの根元あたりまで徐々に肉厚になっていくものだが、ソネットの場合は付け根以外はほぼ均等な厚さ。また穂先が相対的にかなり長いので、ペンポイント近くまで柔らかいのが特徴。
柔らかいペン先といえば、ハート穴に近づくほど肉薄なので、シトロエンのサスペンションのように柔らかい。ふわんふわんという感じ。ところはハート穴付近はそれほど肉薄でもないが、先端部が薄く斜面も鋭角のソネットの場合、先端部から3�个曚匹�ペコペコと柔らかい独特の筆記感。スイートスポットさえ作り込めば、この感触に溺れてしまうこと請け合い！
このソネットの弱点は首軸先端部の金属がすぐにボロボロになること。インクに浸る事が多い首軸先端部に金属を使うなんて設計ミスでは・・・と思うのだが、外国製萬年筆では一般的。Pelikanですら金属製・・・傷つきやすく腐蝕しやすい。使用頻度の判断は首軸先端部の劣化具合を見れば良い。未使用品と書かれているM800の首軸先端部が劣化している例もオークションではよく見かける。
こちらがペン芯から外したペン先。ソネットの設計が優れているのは、このようにペン先をすぐにペン芯から外せること。弾力のあるペン先がペン芯に食い込んでいるだけなので、そこにピンを入れて外側にはじけばプリンと外れてくれる。まるで
薄いステンレス製バネのような弾力を持った18金ペン先。この弾力も独特の柔らかいペン先に寄与しているはずだ。18金ペン先でこれほどびよんびよんと弾力のあるペン先にはめったにお目にかかれない。
あまりに書き味が悪いので好きにして・・・ということであろうと理解して、インクフローを改善すべく、このペン先に隙間ゲージを突っ込んでスリットを拡げ、スイートスポットを作り込んでいった。
スリットを拡げ、円盤研ぎだったXFのペンポイントの腹を落としスイートスポットを研ぎ込んだ。これによって筆圧をかけなくともインクがスラスラと出てくるし、紙当たりのゴリゴリした感触も改善された。
もちろんXFのペン先であるので、ぬらぬらにはならない。過去に何度も述べてきたようにぬらぬら感は、ペンポイントの接紙面積の関数であるから、3BとXFでは、ぬらぬら感のベースは10倍以上違う。
ただし柔らかいペン先に、インクがふんだんに供給される状態を作り、低い筆圧で紙をなぞるようにゆっくりと書くとすれば、その場合の気持ちよさは、けっして3Bのぬらぬらにひけはとらないはずだ。
ソネットをいかにケチョンケチョンにけなしても、この書き味の柔らかさの魅力には抗えない。
悪い女ほど魅力的なのに似ているかも？
【 今回執筆時間：3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(10)│
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萬年筆調整
こんにちは
早速ですが、小生のソネットはキャップの密閉度１００％です。
「天冠の隙間から勢いよく空気が漏れました」を、ノーダメージで、しかも元にも戻せる方法はちゃんとあります。
ニブ交換を（何度でも）と書いたのは解釈違いのようで、「無償で１回限り」というのが正しいようです。
ショートサイズでフラットなクリップが付いた最初期モデルは1988年から1989年にかけて発売されましたが、1990年にリモデルされてクリップが長い湾曲成型タイプに変わりました。
この最初期モデルは、Parker社から10年間毎年無償でメンテナンス・サービスが受けられ、しかもこの間は（何度でも）ペン先交換が受けられる特典付きでした。必然的に、出荷時のオリジナル・ニブ付きは少なくなると思います。
Mont Peliさん早速のご教授誠に感謝です。やはりオーナーの変化に伴うマークの変化でしたか！ ペン芯・ペン先・首軸の清掃をより十分に行う目的で、首軸からペン先を抜くと言う魔の道に最近入り始めてしまい、その際前述した2種類の刻印があるのを発見し疑問に思ったのです。
ということは復刻版デュオフォールド(初期モノ）のうち、クリップの矢羽根が立体成型でないいわゆる最初期版の胴体に「Pの字がV字状に配置されたP↑P刻印のペン先」が付けられているものは、未使用品・ユーズドに関わらずどこかでペン先が交換されているってことなのか…うーむ。PELIKANのE|NやP|Fの刻印も興味シンシンですが、PARKERのも奥が深そうです。
Terryさんお尋ねの「P↑P」刻印(maker's mark)の件ですが、二つのPが矢のシャフトに平行なものがGillette社買収前のもの、斜めにV字状に配置されているものが買収後のものです。（Parker社のGillette傘下入りは1993年）
maker's mark（responsibility mark）は、フランスの貴金属刻印ルールに従い、経営母体企業が変わる都度、マークの変更・届け出が必要なためと理解しています。
煙突って言い得て妙なたとえですね。確かに数日書かないで放置した後に用いると、インクの色が必ず濃くなっていますから。はっきり言って欠点なのですが、逆に毎日使わなくてはと思わせてくれるアラートなのだとHALOマーク時代までのPARKERファンの私にとってはあばたもえくぼ状態です、はい（なおPの字を斜めにしたロゴ以降のPARKERには私はほとんど興味がありません。アングロサクソンっぽさの消えたPARKERには好き嫌い以前に「興味が湧かない」のです。単に嫌いより事態は遥かに深刻）…
この記事の画像絡みで質問があります。この話題とは直接関係ないのをお許しいただきたいのですが、PARKERの18Kニブに付いている刻印についてです。WATERMAN工場製になる前のPARKERの1980年代〜1990年代中盤までの刻印は「P↑P」ですが、私が色々なペンを見たところ「矢印の縦線が2つのPの字の縦線と平行になっているもの」と、この記事のニブのような「矢印の縦線を境に、2つのPの字が斜めにV字状に配置されているもの」の2通りあるのです。両社の違いは何に起因しているのか、もしご存じの方がいらっしゃいましたらご教授願います。単に製造年の差だけなのでしょうか？？？
Mont Peli さん、しまみゅーらさん
なんと現行品でも煙突なんですね。
あのすばらしいニブを生かしてあげたいのになぁ・・・
現行品でも同じです。キャップと称した単なる煙突です。
私はコーク剤で埋めましたが、今度はキャップの開け閉めがやたら重くなり、力を入れて開けるとパーツが外れてしまう始末。どちらにせよ、投げつけたくなるペンには変わりないようです。
生贄調整ありがとうございます。
どうもパーカーは手にあわないのか，未調整のままだとイライラして叩き付けたくなります。。。
あと2本よろしくお願いします。
キャップ天冠部から空気が漏れるというのは初耳だったので、10年ほど前に購入したソネット（「プルミエ・ゴールド・カスケード」）で試してみました。仰有るとおり、天冠の隙間から勢いよく空気が漏れました。インクが乾くのは、これだったんですね。
生贄は、パーカーのメルー工場製（ニブ刻印がPPマーク）、私の所持品はメルー工場閉鎖後の（ウォーターマン社の）サンテルブラン(St-Herblain)工場製(刻印がP/Wマーク）なので10年くらいの時間差がありますけど改良されていません。
本日紹介するのは、生贄としてお預かりしたParker Sonnet。ペン先の柔らかさには誰でもが驚かされるが、それ以上に驚くのがペン先の乾きやすさ。はっきり言って萬年筆としては使えない代物。キャップを締めても外気が自由に出入りできるという画期的（？）な機構により、書き出しの色が異様に濃くなってしまう。また書き出せないことも多い。さらにはカートリッジのインクの減りが異常に早い・・・など
こちらがペン先の拡大画像。ペン先の金が薄いのでメチャクチャ柔らかい筆記感がある。店頭で試し書きした人は、もし萬年筆好きの店員さんに理由を説明した上で奨められたら高い確率で堕ちてしまうだろう。
通常、ペン先はハート穴あたりからペンポイントの根元あたりまで徐々に肉厚になっていくものだが、ソネットの場合は付け根以外はほぼ均等な厚さ。また穂先が相対的にかなり長いので、ペンポイント近くまで柔らかいのが特徴。
このソネットの弱点は首軸先端部の金属がすぐにボロボロになること。インクに浸る事が多い首軸先端部に金属を使うなんて設計ミスでは・・・と思うのだが、外国製萬年筆では一般的。Pelikanですら金属製・・・傷つきやすく腐蝕しやすい。使用頻度の判断は首軸先端部の劣化具合を見れば良い。未使用品と書かれているM800の首軸先端部が劣化している例もオークションではよく見かける。
こちらがペン芯から外したペン先。ソネットの設計が優れているのは、このようにペン先をすぐにペン芯から外せること。弾力のあるペン先がペン芯に食い込んでいるだけなので、そこにピンを入れて外側にはじけばプリンと外れてくれる。まるで薄いステンレス製バネのような弾力を持った18金ペン先。この弾力も独特の柔らかいペン先に寄与しているはずだ。18金ペン先でこれほどびよんびよんと弾力のあるペン先にはめったにお目にかかれない。
