今回の依頼品は1950年代のMontblanc No.144じゃ。ずっと以前の記事を読んでいたら、当時好きだったNo.14Xは、No.142、No.146、No.144、No.149の順番だったらしい。もちろん1950年代に限っての順番。それが今では、No.144が一番で、二番がNo.146となった。
1950年代の萬年筆は修理しやすさが一番大事で書き味等は二の次。そうなると修理しやすさと書き味のバランスが良いNo.144が消去法的に一番になる。実際、1950年代のモデルを1本だけ選べと言われたら、No.144が一番!二番はおそらくはNo.256。
ともあれ、今回の依頼内容は今までと全く違う。
ペン先はかなりひっかかる。左右の研磨ムラとでも言うべき段差が出来ている。柔らかいペン先にはたまに見受けられる。
もちろん出荷時からあるものではなく、市場のどこかで修理人が研磨した際に出来たと思われる。電動式の研磨機を使う場合、ペン先に弾力があると発生しやすい。特に斜めに研磨機にあてたのに気付かないと左右のペンポイントの厚さを変えてしまう。海外の調整人にありがちな失敗じゃ。
この個体のペンポイントは多少寄りが強いのと、ペン先が前に出すぎているせいか、ペン先の固定が弱い。強筆圧の人が書いたらペン芯とペン先がずれてしまう可能性もあるので、少し首軸に押し込んでおこう。
ペンポイントはかなり斜めに研磨されており、寝かせて書くとカリカリとものすごい筆記音をあげる。かなり立てて書くように調整されているらしい。特にペンポイントの腹の一番おいしい箇所が尖っていて段差もあるのでこのままでは筆記が楽しくあるまい。
しかし依頼人の本来の意図は別のところにあった。No.144のピストンの弁を特殊な樹脂製のものに変えられないかというのが今回の真の狙い。書き味改善はおかずのようなもの・・・
左画像の右下が今回の個体に付いていたコルク製の弁。まだ新しくインク漏れを心配するほど交換してから時間は経過していない。
しかし依頼人はこれを自作の特殊樹脂製の弁(右上)と交換したいということじゃ。実は、数年前、依頼人はNo.142とNo.144、No.146の内径に適合しそうな弁を職人さんに依頼して作成した。特殊な樹脂の板(自作)を職人さんにわたし、液体窒素で凍らせて削って作るという方式だったと記憶している。
アイデアは秀逸、素材も完璧だったのだが、拙者の手元に来てからの微調整が出来ない。液体窒素で固めないと、刃物やサンドペーパーがまったく効かないほど弾力がある樹脂!で当時は断念していた。
今回はその時の残りをやや加工されたものが持ち込まれたので、トライしてみることにした。もしこの大きさの弁が量産されれば、世界の1950年代コレクターは狂喜乱舞するであろう。弁の交換時に軸を割るリスクから解放されるのじゃ!