2012年06月18日

月曜日の調整報告 【 Sailor 島桑 21K-M さらなる挑戦! 】

1今回の依頼品はセーラーの島桑。拙者が現在最も使用頻度が高い萬年筆じゃ。これは不思議な萬年筆で、いろんな方に使っていただいて調整を乱してもらい、その度に微調整を繰り返していると、すばらしい書き味になっていく。

以前絶妙に調整した島桑を持っていたのだが、4月のペントレでお嫁に行ってしまい、後任の島桑を調教中!既に手を入れる余地が無いほどに完成度が高まっていた。
それを大宮大会で試筆してもらっていたところ、関西からの客人がその書き味に驚いて、自分の島桑を差し出し、これも調整して欲しい!と・・・

23で、ペン先を確認してみると、絶妙に調整されている。かなりペンを立て、筆圧も高い方なのだが、その筆記角度に合わせて見事に調整されている。
なんで調整が必要なの?と聞いてみると・・・
【実はまったく不満を感じていなかったのだが、ここの島桑を書いてみて、ビビビと来たので、まだ良くなる可能性があると思うので、なんとかして!】とのこと。

4こちらが横顔なのだが、本当に見事に筆記角度に合わせてある。拙者は依頼人の萬年筆を何十本も調整しているので、筆記してもらわなくても調整出来るが、これほど的確な角度は割り出せないだろう。おそらくはプロのなせる技であろうが、一瞬でこの角度を見つけるとはさすが!なんというか調整している本数の差はいかんともしがたいなぁ・・・と感じた。

5では、この筆記角度が最適な依頼者が、ビビビと来た拙者の島桑の調整はどうか?
左画像上が、この島桑のペンポイントで、下が拙者の島桑のペンポイント。数十人の試筆を経て追い込んだ調整になっている。
拙者が筆記すれば、当然下の方が書き味は良い。ただし依頼者に対して下のような角度で調整したものをお渡ししても、すぐに調整が狂ってしまい、さらに微調整の迷路に迷い込んでしまうであろう。

調整は筆記角度に合わせた状態で調整しなければならない!上の状態のペンポイントををさらに書き味良くするには、スリットを多少開いてインクフローをあげ、ペンポイント表面を細かいペーパーで磨き込むだけ。

6まずはペン芯とペン先を分離し、ペン先を洗浄した。かなり青系のインクがこびり付いていたが、Blue-Blackのインクでも使っていたのかな?
ロットリング洗浄液と、アスコルビン酸溶液に入れて撹拌したら、ペン芯表面のテカりも消えた。このテカりは青系のBlue-Blackインクを入れて放置していると発生しやすいのじゃ。おそらくはどこかのタイミングで外国製のBlue-Blackを使ったのではないかなl?
敢えて青系Blue-Blackと書いたのは、Garyさんの緑系や赤系の古典Blue-Blackでは、今のところテカりは発見できていないからじゃ。

7こちらがペン芯。よく見ると左右対称ではない。この非対称がセーラーのペン芯のミソとずっと以前にセーラーのペンクリで聞いた記憶がある。
曰く、【ずーっと筆記していると、空気とインクがバランスして一瞬、インクが出なくなるタイミングがある。その時、この非対称のペン芯が威力を発揮し、空気の代替経路を作ってインクの途切れをなくす】とかなんとか、そのようなニュアンスの事を聞いた。当時はインクの出る仕組みを良く理解していなかったので、聞いた内容もあやふやだが、それ以降、左右非対称のペン芯を見つける度に・・・惚れてしまう。

8こちらが少しだけスリットを拡げたペンポイントの状態。実は一旦もっと拡げて調整したあとで少し絞ってある。これがMの調整のコツ。インクドバドバ好きなら簡単だが、ほどほどのインクフローで滑らかな書き味を求める人には、スリットを開いて調整したあとで、少しスリットを絞るよい。これは理屈ではなく、経験則。そういう意味では大勢に調整を崩してもらった方が書き味が良くなるというのも、経験則・・・というか妄想かもしれない。

で、結果はどうか?少なくとも今に時点では依頼者が驚くほどに滑らかな書き味となっている。ただしこれが持続するかどうかは、依頼人の筆圧しだい。
筆圧によって調整が狂いやすいからこそ、他人に使ってもらい調整を狂わせてから微調整を繰り返して書き味をあげる技が適用出来る。
この書き味を維持したいなら、筆記角度は変える必要はないが、少し筆圧を落とした方が良いであろう。金の含有量が多いペン先はどうしても筆圧による変形からの戻りが弱いからな・・・


  【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
島桑のインクの件ですが、ほんの2〜3日青墨のカートリッジを使いました。この痕跡が残るなんて怖いですね。
Posted by むしむし会 at 2012年06月19日 16:22
お世話になりました。大宮ではホントにビビビでした。受け取りが楽しみです。筆圧を低くするよう心がけます(最近自分でも気が付いたのですが細字の時にはわりと軽く書いてます。これが太字・小さ目のペンとなると思いっきり圧力をかけ、かつ、ひねって書いているようです)。
Posted by たでくふむしむし会 at 2012年06月18日 23:44