2012年06月08日

金曜日の調整報告 【 Wahl Gold Seal ブラック&パール 14K Flexible-B インクボタ落ち 】

1今回の依頼品はWahlのVingate品。拙者も数回しかお目にかかった事がない。しかもFlexibleニブというのは初めてかな?萬年筆関係の書籍や図鑑では良く見かけるが、日本で本物を見ることは稀。依頼者もeBayで米国人から入手したらしい。時期は2002年ということなので10年前。購入当初から筆記途中のインクのぼた落ちがあり、その時は修理に出して直っていたのだが、最近またぼた落ちが再発したらしい。
こういう場合はほとんどが、サックの弾力低下による物。修理は簡単と想像していたのだが・・・・

23ペン先は米国製のVintageにありがちな研磨方法。ニブの背中側をかなり研磨するのが特徴。なぜそこまで研磨するのかの理由は不明。ひっくり返して細字を書く・・・というのを推奨しているわけでもあるまい。
ペン先はかなり前に出ているような気がする。この状態では多少ペン先が緩い感じもするが、依頼者は筆圧が低く捻って書くわけでも無いので、この位置を正としよう。何よりペン先が最も美しく見える位置なのでな。

4こちらは横顔。この画像では左右の段差があるように見えるが、これは寄りが強くてペンポイントが合わさった時の位置で止まっているだけ。合わさる位置は左右逆になることもある。
多少気持ちが悪いので寄りを弱くして左右の段差が出ないようにスリットをすこしだけ開いておこう。

5こちらがペン先の全体画像。感想は・・・でかい!
当時の米国の裕福さを象徴するような立派な金ペンじゃ。正式名称はWahl Eversharp Gold Seal で、14K Flexsibleのペン先が付いている。どうやらペンポイントの太さは刻印されていないらしい。

6首軸を引っぱると軽い力ですぐに抜けた。おやおやサックはまだ健在だな。弾力も弱くはなっているが、裂け目などは出来ていない。ゴムサックに粉をまぶした痕跡もあるので、完璧な修理技術を持つプロによって修理されたのは間違いない。

7ただ、このペン芯の能力に比して、サックが多少太くて大きすぎるように思うので、一回り細めのサックを少し短めに切断して取り付けることにした。
それで一丁上がりと思ったのだが・・・もう一工夫必要な事がペン芯を見てわかった。


8なんとペン芯に空気流入を押さえるエボナイトの加工品が入っていた。この細工の細かさにビックリ。画像では大きく見えるが、実際には幅は1ミリも無い。しかも下部は平坦でインクは問題なくインク溝を流れるようになっている。また上には浅い溝が彫ってあり、空気の流入はこの溝によって制限され、結果として空気の代替として出てくるインク量を減らす仕組みじゃ。
日本の職人はティッシュを詰めるような荒技が多いと聞いていたが、これはすごい!

9ただ、それでもインクがボタ落ちするようになったとのことなので、2つ細工をした。ひとつは、エボナイトの切片を少し後ろにずらすこと。これによって空気はさらに抑制される。ペン先とペン芯との隙間の関係で。
さらにエボナイトの切片の後ろに、小さく削った銅板の切片を追加で入れた。これによって空気の流入はさらに抑制され、インクのボタ落ちは防げるはず。4時間の実験ではあるが、ボタ落ちはいまだ発生していない。
書くと簡単だが、この銅製の切片に行き着くまでには紆余曲折があった。小さなゴム板の破片、ゴムサックの破片の次に銅の切片を実験した。ヘッドルーペを利用しての作業なので、なにかの拍子にブツを飛ばして見失ってしまう。で、また最初から加工・・・というのを4〜5回繰り返した。
銅の良いところは伸ばすのが簡単な事。少し小さめにカットした後、トンカチで伸ばして大きめにし、それを時計のベルトピンはずし工具でタタキながらペン芯に押し込んでみた。

10そして最後に小さめのサックをシェラックで固定して粉をまぶして終了。そこから4時間ほどぼた落ちテストをしたが、それは下記の作業時間には含まれていない。

それにしてもエボナイトの切片で作られた空気抑制弁はすごい。これは初めて見たなぁ・・・これって一般的なのかな?


  【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 
Posted by pelikan_1931 at 09:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
ペンポイントの太さはニブには刻印されていませんが、私の所持品にはペン芯の根元付近にMの刻印があります。
Posted by Mont Peli at 2012年06月10日 07:56
本当は、ニブ・ユニットが首軸にセットされたままだとインクサックを外さないとペン芯とペン先を叩き出せないけど、ニブ・ユニットを外してから叩き出せばインクサックがセットされた状態でも作業できるとお伝えしたかったのです。
Wahl社に対する賞賛の念が表向き、隠れた意図が真意というところでしょうか。
Posted by Mont Peli at 2012年06月10日 07:26
まったくその通り!
モンブランとペリカンは、アメリカ物からパクって生き延びてきたのです。
先駆者たちはいつもアメリカ人。

言い方が悪いですけども。

ところでこのペン、アメ横でミントカラーでありました。まだあるはずです。

売ってるかは分かりません。
Posted by チャッピー at 2012年06月09日 01:09
ネジを切ったホールダー(ニブ・ソケット)にペン先を組み込んだペン先ユニットは、今ではMontblancやPelikanの専売品みたいに受け止められていますが、1920年代に先鞭を付けたのがこのWahl Eversharp社のGold Sealです。
左に回すとユニットごと外れる仕組みのニブ・ユニットは当時としては画期的なアイデアだったと評価しています.

Posted by Mont peli at 2012年06月08日 12:46