今回の依頼品は1950年代のMontblanc No.264。当時は最高峰にNo.14Xシリーズ、そしてNo.24Xシリーズ、No.25Xシリーズと続き、No.26Xは4番目のラインだった。
このあとにはNo.34Xやモンテローザがある。
非常に評価が高い1950年代のMontblancではあるが、No.14Xはテレスコープの故障、No.25Xはキャップクラック、No.24Xは天冠陥没、No.34Xはクリップの鍍金剥がれなどトラブルの宝庫でもある。その中でシンプルな機構のNo.26Xは比較的トラブルが少ないように思われる。
書き味の向上ということで持ち込まれた個体ではあるが、ペン芯にはカリカリに乾燥した赤インクがこびり付いている。これは水で洗ってもロットリング洗浄液に浸けても取れなかった。
赤インクはインク窓を染めてしまう危険性が有り、出来れば回避した方が良いインクではあるが、Vintageの赤インクはさらに面倒なものであるようじゃ。
まずは汚れに汚れたペン先を外し、綺麗に洗浄した後で金磨き布で磨いた。
さらにガチガチに詰まっていたスリットをわずかに拡げてみた。しかし書き味は一向に向上せず!どうやらインクフロー不足で書き味が悪いだけでは無く、研ぎの問題じゃな。
Vintageは出来るだけ研がないのが最近の拙者の調整方法だが、ここまで書き味が悪くては調整せざるをえまい。
ペン芯はボーグルーペを装着し、歯科医用のメスで赤インクによる汚れを少しずつ剥がしていった。最後に爪ブラシでゴシゴシと擦って削りカスを除去したのが左画像。
こういう清掃作業は、大人数が待ち行列を作っているメーカーペンクリなどでは不可能。せいぜい超音波洗浄機にかけるのが精一杯。
でも
超音波洗浄機ではこの赤インクの汚れは落とせない。自分で分解や再アセンブルくらいは出来るようになると、萬年筆ライフははるかにここち良いものとなる。
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左が調整前、右が調整後の上から見た画像。少しペン先を首軸に押し込んでいるのがわかるかな?
左の状態では少し筆圧をかけるとペン先がぐらつく危険がある。
赤インクで固定されている状態なら問題はないが、赤インクのカスを取り除くと多少緩くなるので、少し押し込んで動かないようにしておいた。
こちらは上から見たペン先先端部の形状変化。同じく左が調整前で、右が調整後。
実はペンポイント先端部が正面から見て斜めに研がれていたので、それを修正すべく先端部を少し削り落とした。
その後でペンポイントの形状を整え、スイートスポットを削り込んでから15000番のラッピングフィルムでエッジを丸めた。
こちらが横顔。ペン先はペン芯から少し前進している。これによって多少当たりは柔らかくなる。
また赤インクの痕跡が見事に除去されているのがわかるかな?
エボナイトを削る職人さんから【作業時間の半分以上は刃物を研いでいる時間】と聞いたことがある。
ペン先調整も本気でやれば、作業時間の大半は清掃作業なのじゃ。もちろん自分の手を綺麗に洗っている時間も含めてのことだが。
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間