今回の依頼品は萬年筆研究会【WAGNER】会員のご友人の持ち物。
20年以上使用していないとか。こういう場合、たいてい胴軸の中でインクが固まり、ピストンが動かないケースが多いのだが・・・
なんとインク窓は綺麗だし、中にインクも残っていない。またペン芯にもほとんどインクはついていない。どうやらこちらにやってくる前に清掃をしてくれていたらしい。
萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリの場合には清掃して持ってきてくれる人には対応が二段階くらい良くなるのだが、生贄の場合には汚れている方が嬉しい!記事になりやすいので(笑
ペン先はくすんでいるように見えるが、細かい傷があるわけではない。擦ればすぐに綺麗になる。
ものすごく柔らかいペン先なのにそれほど斜面が鋭角ではない。要するに、ペン先の薄さで柔らかくなっているようじゃ。
この場合、ペン先とペン芯を首軸に押し込む場合、少し緩いものだが・・・やはり緩かった!
また上から見た場合、ペン芯が少しはみ出している。これは美しくない。拙者が一番嫌う状態じゃ。ペン芯を真ん中にすると同時に、少し後退させておこう。
こちらは横顔。見事な鉈型ペンポイント。通常と違うのは鉈型であっても円盤研ぎではないこと。Mという触れ込みだが、ペンポイントの腹の部分の幅は広く、B程度の字幅になる。
そしてヘロヘロに柔らかい。なんというか、年取って足を踏ん張る力がなくなったご老体のような柔らかさ。しなやかというよりも、ヨロヨロに柔らかいという表現の方がいいかも?
いずれにせよ柔らかいニブであるのは事実で、それなりに楽しませてくれる・・・が拙者にはやや柔らかすぎるかな?
柔らかいペン先の特徴としてペンが傾いただけで段差が出来、エッジが紙にひっかかるので、常にカリカリとした書き味になっている。
あまりにカリカリするので、正面から眺めてみると、ペン先がペン芯の中央に乗っていないためか、激しい段差が出来ている。これだと最初にひく線が左から右であれば、100%掠れてしまう。
ペン先とペン芯を首軸から抜き、ペン先単体での段差が無い状態にしてからペン芯に乗せ、さらに段差を微調整する。ここが一番根気が必要。
普通はここからスイートスポットを削り込んでいくのだが、今回は依頼者本人にあった事がないので書き癖がわからない。普通はこの状態では調整は出来ないというのがプロ。
フルハルターの森山さんなどは、使い込んで書き味が自分にマッチしてる萬年筆を同封しない限り、新品萬年筆の調整は対面販売でしかやらないと聞いたことがあるが、それが正解。
このBlogで扱うのは【どうなっても責任は持たんけんね!】という生贄扱いだからこそ研いでいる。それにご本人が登場すれば微調整はいつでも出来る。引き渡しは9月の仙台大会になりそうじゃ。
こちらがペン先単体画像。シンプルで実に美しい筐体。それほどペン先の斜面が急ではないので柔らかい感じはしないのだが、ヨロヨロに柔らかい・・・
斜面の勾配が急なペン先の柔らかさと、斜面の勾配が緩やかで柔らかいペン先の書き味の差は非常におもしろい。
いつもの事ながらMontblancの切り割りの正確さは特筆モノ。またペンポイントの研ぎも非常に美しいのだが、それが書き味に影響していないのが残念!綺麗だが・・・買き味は今一歩!