2012年07月04日

水曜日の調整報告 【 Montblanc アガサ・クリスティ 18K-M 超コテ研ぎ 】

1今回の生贄はアガサ・クリスティー。Montglanc 作家シリーズ初期の限定品。
拙者は早い段階でインペリアル・ドラゴンを伊東やで定価で購入したので、それほどアガサには思い入れがない。
ただ眼にルビーが入っているということで、女性にはかなり人気のモデルだったはず。定価では10万円以下だったはずだが、その後かなり値段が上がっていった。
Montblanc の限定品の例にもれず、キャップを後ろに挿すとリアヘビーなうえ、キャップを尻軸に挿す構造なので、誤ってピストンが回ってインクがダダ漏れしてしまう事故も起こりやすい。

23今回の依頼内容は書き味の改善。確かにスリットは多少詰まってはいるが、それほど書き味が悪いはずはない。Montblac 限定品のペンポイントの素材は最高級のものが使われており、ペン先の研ぎもPelikanほどのバラツキはない。従ってそれほど酷いはずはないのだが・・・

4と思いながら横顔を見てみると・・・ん?ペンポイントの先端部に黒いゴミでもついているのかな?
ぎゃー!超コテ研ぎだぁ!コテ研ぎの始祖といわれる神戸の鞄職人でも目をむくような超コテ研ぎ!長年ペンポイントを眺めてきたがこんな立派なコテ研ぎは初めて!

56この角度で見るといかにすごいコテかがわかろう。いったいどうやってこのようなじょうたいになったのか?
通常筆記でここまでコテにするのは、超高筆圧の人でも20年はかかろう。またその場合は、軸もボロボロになるほど酷使されているはず。
どう考えてもサンドペーパーか砥石で擦ったとしか考えられない。海外であれば砥石の方が可能性は高いかもしれない。
またペン芯はヘミングウェイと同じ設計で小型の、通称ヘミングウェイペン芯(名付親は拙者)。これはエボナイト製ペン芯と同じ径であり、かつニブストッパーがないのでペン先とペン芯の位置関係を自由に変えられる。
これを何故現行の型に変更したかといえば、その自由度が我慢ならなかったのであろう。100%作り手側の論理だが。これはPelikanのソケットにある溝も同じこと。

7こちらが清掃し、ペンポイントの形状を整え、スリットを少し開いた状態。Montblancではヘミングウェイの直前からペン先にコストカット穴を開けるようになった。
従ってNo.146タイプのペン先を使う最初の限定品であるメディチにもコストカット穴があるので、当然アガサにもある! 
ペン先のヘビの顔をよく見ると何故かとぼけていて愛嬌がある。 以前にMontblancの限定品で胴体がNo.149タイプでクリップが金無垢の龍というのがあった。
世界のコレクターをして【ツチノコ】 と言わしめたほど愛らしい?龍であったが、それを彷彿とさせるとぼけた蛇顔じゃ。拙者の持っているNAMIKIのパンダも相当偏差値の低い顔をしているが・・・

89こちらが調整後のペン先。コテ状態は直り、どちらかといえばStubの形状になっているが、字幅は通常のMとほとんど変わらない。
またインクはぬらぬらと出てくるのでストレスはまったく感じない。ただし滑りすぎると字形が崩れるので多少摩擦感を残した調整にしている。
人の書き味に対する好みは千差万別で少しエッジが引っ掛かる方が好きな人もいる。以前はそういう好みに極力合わせようとしていたが、最近では萬年筆に出来るだけやさしい調整にするように方針変更している。

10こちらは裏側からペンポイントを見た超拡大図。以前の画像と比べてコテ状態が改善されているのがわかろう。
また腹をかなり削り取っていることも。コテ研ぎになると、どうしても筆記角度が変わったときに腹が紙に引っ掛かる。それを防ぐには腹を削るしかない。
すなわちいったんコテ研ぎにするとStubに研いでサルベージするしかなくなるのじゃ。


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 09:44│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整