金曜日の調整報告 【 Pelikan 100 疑似Demonstrator 14K-EF 押し書き極細化 】
![1](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/f/7/f7115f42-s.jpg)
今回の依頼品は珍しい。軸がまったくのDemonstrator仕様になっている。これは元々の仕様ではなく、最近海外で販売されているスペア胴軸の仕様。
オリジナルの胴軸を零細工房が作るのは無理なので、安価な樹脂を使ってPelikan 100に合うスペアパーツを作って販売しているのであろう。
拙者も知ってはいたが、入手には至っていなかったので(そもそもPelikan 100を持っていない・・・)出会えてラッキー!それにしても良く出来ていて感心した!
今回の依頼は、この萬年筆の機構に不具合があるのではなく、左利き用(押し書き)極細調整にして欲しいというもの。
![2](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/0/3/03238fcb-s.jpg)
![3](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/3/0/30da22b6-s.jpg)
ペン先のKARATとEFの間に、お星様のマークがある。8角形なのでダビデの星ではなさそうだが、何の印だろう?知っている人がいたら教えて欲しい。
このペン先は先端部がずいぶんと肉厚で下にお辞儀している。自然と曲がったものではなく、最初から分厚い先端部にしようと狙って作られたのは確か。
![4](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/f/6/f67c72d2-s.jpg)
![5](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/6/d/6dd3f18e-s.jpg)
こちらは横顔。ものすごくお辞儀させられているのは、ペン先のスリットを寄せてインクの出を絞るためであろう。
それはそれで理にかなっているのだが、それが適用できるのは、右手での引き書きの時だけ。左手で押し書きする場合には・・・先端部が紙に引っ掛かって押せないのじゃ。
従ってPelikanに代表されるお辞儀ニブの極細は左手押し書きの人には向かないのだが、依頼人はVintageのPelikanの極細が大好き!好んで困難に立ち向かおうとする本能をお持ちのようじゃ・・・
![6](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/8/b/8b1cac74-s.jpg)
こちらは尻軸。右端のピストン弁の部分にはOリングが二個嵌まっている。普通は樹脂のものがほとんどだが、弁としての性質はOリングの方がはるかに優れている。
実際、パイロット・カスタムヘリテイジ 92では、Oリング一個で弁を形成している。
見栄えさえ気にしなければ弁の将来系はOリング(一個)が正解!出来れば色のバリエーションは欲しいがな。
![7](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/d/2/d294e0b6-s.jpg)
今回の研ぎにはポケッチャーが大活躍した。従来の発泡スチロールの円柱に耐水ペーパーを巻き付けたものを使っていたら、2時間はかかっていたであろうが、ポケッチャーではものの2分で粗研ぎが完成した。左画像を上の方の研磨前の画像と比較すれば、細字研ぎの極意?がわかるであろう。敢えて解答は書かないが。
![8](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/a/f/af091073-s.jpg)
こちらはペンポイント先端部の状況。極細希望なので、先端部はピッタリと閉じている。間にラッピングフィルムを挟むと、その状態でラッピングフィルムをつまむと、万年筆全体が吊り下げられるほど強く寄せてある。ペン先はEFとはいえ、かなりペンポイントの横幅があったのだが、これも半分以下に削った。全て研磨機があってこそ出来たことじゃ。
![9](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/6/a/6a2b5f7f-s.jpg)
![10](https://livedoor.blogimg.jp/pelikan_1931/imgs/d/8/d812312c-s.jpg)
こちらが調整後のペンポイント。今回、押し書き用に適用した技は二個ある。
一つはお辞儀を減じたこと。お辞儀しているから、押す時に引っ掛かるので、お辞儀を弱めること。具体的にはツボ押し棒でお辞儀を減じると共に、ペン芯のカーブを新しいペン先のカーブに合うように熱で変形させること。
もう一つは、ペンポイントの腹を削って押したときに滑りやすくすること。押した時に、するっと流れるように動くのがポイントじゃ。
左利き用調整では、ペンポイントを研ぐ方向がまったく逆なので、研いでいて頭が混乱する。これがまた楽しい。ともすればマンネリになりがちな研磨作業であるが、押し書き対応には新たな発見が毎回あり、飽きることがない。左効きで万年筆が使えない・・・とお嘆きの方がいたら、一度萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリにお持ち込み下され。絶妙の書き味に変身するかもしれませんぞ!
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1h 修理調整2.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(8)│
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萬年筆調整
Mont Peliさん
貴重な情報ありがとうございます。
日本企業であれば、どこに外注したかなどは極秘情報なので絶対に漏れないはずですが、Pelikan社の情報はいまもむかしも不思議とルーズ。ファンにとってはたまらない会社です。
脇が甘い=魅力的です。
論拠資料としてネット文献をもう一つ提示します。
Pentrace Article#368:Pelikan History Part1(by Rick Propas)の中段
Initially,howeverで始まり、(We'll have more on Pelikan nibs in a few weeks.)で終わる文節に目を通していただければわかりますが、Montblanc社がいつまでPelikan社にニブを提供していたかも、外注先がMontblanc社だけなのかもわかっていないのです。
Pelikan nib engravingsの記事では、1934年までは全量をMontblanc社が提供し、それ以降は全量を自社で製造していたかのようなニュアンスの記述になっていますが、これは執筆者の推測だと思います。
Pelikan nib engravingsと題する海外サイトの記事とニブ写真にヒントが潜んでいると思います。
上から数えて5番目がこの星形マークのニブですが、同時期の他のニブに較べて異なる特徴(肩幅が狭く、細身)だと思うのです。
Pelikan社の最初期のheart-hole nibがMontblanc社製であることは定説ですし、その後に続く丸い穴のニブで全く同じ刻印パターン(彫りが深く字体も同じ)のニブもMontblanc社製であることは疑う余地がありません。
それ以後に登場する星形マークのニブと刻印パターンが異なる他のニブはMontblanc社製であることの決め手がありません。
Lambrou本でも、1934年まではbought-in gold nibだったとしか書かれていません。Pelikan社が開示しない限り解明できない問題だと思います。
Mont Peliさん
Montblanc製とバレないように8角形の星を入れたという推理はおもしろいですね。
この当時、Montblanc以外にもペン先製造を委託していたというのは、推理ですか?それとも事実ですか?
私はてっきり100%Montblancへの外注と根拠無く思い込んでいたので。
ペン先に刻印された星型のマークは、製造所(メーカー)を見分けるための製品管理上の記号だと思います。
Pelikan社の万年筆製造開始は1929年ですが、1934年に金属加工部門を立ち上げペン先の自社製造を始めるまでは、全量が外注でした。
1.1929−1934年(全量外注品の時代)にMontblanc社製とそれ以外のメーカー品が混在した--例えば、Montblanc社製でない方に星型マークをつける。
2.1934年以降(内製開始後)に自社製と外注品が混在した--例えば、外注品(Montblanc社製)に星型マークをつける。
のいずれかで、製造所を簡単に見分ける記号が必要だったというのが私の推理です。
akiさん。
ご本人様がご存知なら問題なかったですね、失礼しました。
ユルユルのズボンは透明の接着剤か何かで固定できると良いですね。
初代ペリカン1929のハートホールは唯一無二のもので以後のペリカンはすべて丸穴になってしまいます。うわさによるとモンブランにこのニブを作ってもらった見返りにピストン回転吸入式の技術をモンブランに渡したとか・・・・。まさに薀蓄ネタ満載の万年筆です。
さて、私がこのスターニブに反応したわけはWATERMANの極初期のニブで五角形の星型刻印のニブが有るためです。これはアメリカの国旗と関係が有るのではと想像していますがわかりません。
師匠、
相変わらず面倒な注文に応じていただきありがとうございます。私も星の意味が知りたいです。感じとしてはパイロットのPOニブに似てると思います。ピストン弁のOリングは1個でも十分機能を果たします。2個のほうがなんとなく心強いですが。それにしても現行のDemonstratorと違って全然高級感がないです。写真写りの問題ではなく素材がアクリルで透明感がないので。
らすとるむさん、
オリジナルの”ズボン”はありますが胴軸がゆるゆるでずり落ちてしまうのでそのままとしています。写真でpelikan fountain penを見せていただきましたがハート穴が惚れ惚れするほど美しいですね。
こんにちは。
八角形の星刻印が珍しいのでコメントします。
以前定例会でも別個体で拝見したような記憶があります。
珍しいですね。
さて、このスケルトンの胴軸は補修用のものですが、ご存知の通りペリカンの胴軸は2層構造で外側の鞘の部分が破れても中側の透明な部分が割れない限りインク漏れは起こりません。尻ノブとの段差を見ても外側の鞘の部分が無いのに気づかれることでしょう。ズボンを履かずにステテコと腹巻姿で外室してしまった時のような気恥ずかしさが感じられます。はやくズボンを履かせてやりたい・・・・・・。
さてさて、らすと「ポケッチャー」が大活躍とのこと。
制作発案者として嬉しい限りです。当初の想定を超えた使い方も有り、何より調整方法に幅が出来たことが最大の喜びであります。
実は今もう一つの機能を付加できないかと画策中です。
お楽しみに!!