今回は少し毛色の変わった調整依頼じゃ。ベースはPelikan 1931 トレド。往年の復刻版でクリップにも刻印が施されてる。
M700トレドではバーメールに仕上げられた胴軸の下絵を彫って仕上げている。
それでも四神などの限定品(全て機械彫り?)よりは人手が入っているだけ愛おしいものだ。
ところがこの1931トレドでは酸化して黒くなった鉄に金を撃ち込んで作られたと聞いた(あやふやな)記憶がある。
相当に手の込んだ仕上げになっているだけあって、かなり高価なモデルだった。
いまやオークションの世界にもほとんど登場しなくなったし、登場しても超高価になっているとか。幻の逸品になりつつあるが、ペン先はその他の限定品と同じで、なんとも普通な書き味だった。
そこで依頼主は、この1931 トレドに、Pelikan 100用のペン先(すなわちオリジナルのトレドと同じ)を取り付けて楽しもうとした。
そして拙者に当時のニブの調整を依頼し、その軟らかいニブを取り付けたのだが・・・結局は使われないまま時間が経過した。
そして最近では、依頼主は軟らかいペン先でも弾力の無いモデルにシフトしているように思われる。Pelikan #500や#600をこよなく愛するようになってきている。
いわゆる【淫らな書き味】に嵌まると、中途半端に軟らかい弾力のあるニブ(100、100N、400系)などを嫌い、ヘロヘロの#500系や、もっと硬い現行のM400系に興味が移行する人も多い。
ペンポイントは依頼主の筆記角度に合わせて研いであるので引っかかりもなく、インクフローも潤沢。
これを1931 トレドについていたオリジナルのペン先(右側画像の下)に交換した上でペン先を一般向けに調整して欲しいとの要望。
あんなに書き味にうるさい依頼主が〔一般向け調整〕を望む、しかもオリジナルの状態に直すとなれば、これは近々お嫁に出すつもりだなぁ〜! と考えられる。
上の画像を見るとペン先のスリットの横に引っ掻いたような傷が見える。確認するとかなり深い傷じゃ。
まず最初は、この傷を取り去ることにした。だんだんと目の細かい耐水ペーパーで磨きあげ、最後は金磨きクロスに押し付けながら傷を落とすのじゃ。
今回はけっこう手強く30分ほどかかってしまったが、傷は見事に消すことが出来た。
ペンポイントが詰まったままだったので少し開いておいた。どうやらこのペン先は一度も使われていないようで、ペンポイントのあちこちが初期状態であった。すなわち摩耗が一切無い状態!
そのままでは実に下品な書き味なので、一般的な人の筆記角度に合わせ丁寧に研磨した。
円盤研ぎだったので少しでも捻って持つと書き出しがゴリゴリになる状態だったが、調整後はスーっと線が紙に入っていく。
また縦書きにしても大丈夫なようにペンポイントの腹の部分も丸めてある。
これによって便箋の上の部分に書く時と、下の部分に書く時とでの筆記感の違いを極少化できるはず。
実際に書いてみて、〔この時代の18C-Mがここまで気持ちよく書けるようになるのだ!〕と感心してしまった。
書き味を良くするだけなら、経験を積んだ調整師ならなんとかなる。
ただし、左のような状態にペン先をセットするには、萬年筆に拘るコレクター魂も必要じゃ。
このペリカンの頭の延長上にペン先のスリットがくるようにしたい・・・という気持ちは無いかな?
拙者はペン先をセットする際に、胴体のどの部分と合わせたら良いのか常に考えている。
位置を変えられないモデルが多いが、今回のように位置を変えられる場合には、必ず合わせる。しかし、この作業は一筋縄ではいかない。
ソケットは胴軸にねじ込むので、回転して止まる位置を計算しなければ無理。しかもペン先とペン芯を押し込んだ状態とソケットだけの状態とではねじ込める量に差がある。
ソケットが緩まないようにキツキツにソケットをねじ込み、しかもペン先のスリットがペリカンの頭の延長上にある・・・さてどうやったでしょう?興味がある方には萬年筆研究会【WAGNER】会場でお教えしまーす!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間