以下は、【萬年筆と科學】に記載されている内容だが、他の出典で読んでもまったく同じ。ということは真実かどうか怪しい。
発明した当事者がきっかけを明確に覚えてるとは限らない。拙者もなぜ調整を始めたかは明確に覚えていないので、物語を作った。
曰く・・・
ある日、秘書から〔あたしのパパのペリカンはすんごく書き味が良いわ。よくサンドペーパーの上でペン先を擦っていてよ〕と聞いて・・・
午後半休にして伊東屋に行き、各種サンドペーパーを購入して削りまくり、1日で50本の万年筆を潰した!
という物語だ。実はそれ以前からスリットにNTカッターの刃を挟んで拡げるような事はやっていた。
真実の部分は秘書の言葉と、午後半休にして伊東屋に行ったことだが、その日はサンドペーパーの売ってる場所を調べただけ。
気を取り直して、まずはマッチ箱の擦る面で磨いたり、目の粗いトレーシングペーパーで書きまくったりした。
その後、おそるおそる2000番の耐水ペーパーで擦ってみたが、筆記角度のまま擦ると、悲惨なことになると気付き、すぐに止めた。
その後、金ペン堂で調整済み万年筆を購入したり、浜松町にあったモンブランのサービスセンターに調整に出したりしてプロの調整したペンポイントを観察した。
モンブランでは、当初は森山さんにまったくあたらなくて、他の男性の担当の方ばかりにあたった。
その方に2000番で擦っていると言うと、まぁ、最低限それくらいは細かい必要ありますね・・・
と聞いて、もっと細かいペーパーがあるのだなと感づいて、3000番やラッピングフィルムを見つけて、凝りだした。
すなわち、秘書の話を聞いた当日に50本ダメにしたわけではない。それほど愚かではない(はずだ)。ただそういう話の方がインパクトがある。
同じように、ウォーターマン氏の話も出来すぎているので、やり手の息子さんの時代に作られた宣伝文句だという説の方が信憑性がある。
ちなみに、拙者は他の方が調整したペンポイントの形状と書き味に違和感を覚え、誰にも教わらず独自の方法で研摩を始めた。
単に自分の筆記角度が定まっていなくて、調整してもらったペン先でも日によって引っ掛かったりして困っていただけだった。
独自に始めたのは、小さく切った耐水ペーパー(やラッピングフィルム)を手に持って、ペンポイントを擦るやり方。
普通は耐水ペーパーを机の上に置くか、ペーパーの束を左手に持ち、右手に持った万年筆を8の字旋回させながら擦りつけるのだとか。
後者はパイロットの合宿研修でもやられていたのか、昔の万年筆店のおじさんは、調整を頼むとそういうやり方だったとか。
そういえば、川窪万年筆さんもそういうやり方だった。お父上から伝授されたのだろう。
拙者のやり方は、ペーパーを作るのに、ものすごく時間がかかるので、WAGNERの定例会で拙者の調整を見た人くらいしかやっていないと思う。
ずっと前から人に調整して貰う事がほとんど無いので、他の調整師の方々がどういうやり方をされているのかほとんど知らないのじゃ。すこし勉強するかな?
ウォーターマン社 創立50周年を祝した その54−3
今回の【その54】に関しては非常に内容が濃い上に、一般には紹介されていない事が盛りだくさん!
従って一回でまとめてしまうにはしのびないので、数回に分けて紹介することにする。
第三回目はL.E.Watermanの発明内容を紹介する
今回はなぜWatermanが萬年筆と関わるようになったのか、また、彼の発明内容は何だったのかを明確にする。
Watermanはエトナ生命保険会社の勧誘員をしていたが、当時生命保険はそれほどポピュラーなものではなく、勧誘員は多いが、客は少ないという状況だったらしい。
従って勧誘員は油断も隙もなく立ち回らねばならず、また、客の気心もいつ変わるかも知れないという【心理的危険性】がつきまとう商売だった。
申込者がいつ何時、どんな拍子に出来ようとも、まごつかないだけの準備をしておく必要があった。
また、【契約書はインキにて申込者の自署を要す】という規定があり、それが即座に実行出来ないと競争には勝てなかった。
従ってWatermanは当初、いつもペンとインキ壺を肌身離さず持ち歩くようにしておった。
ところがインキで洋服にシミはつくは、書類は台無しになるわという始末で、ほとほと愛想をつかし、代替策を捜している時に萬年筆に出会った。
元来新し物好きのWatermanは、さっそく奮発して一本購入し、【萬年筆は俺の助手だ!】と吹聴するほどの気に入り方であった。
ところがある日、有名な事件(作り話かも?)が発生する。
契約書にサインいただこうと萬年筆を差し出したところ、インクがドバーっと漏れて契約書が台無しになり・・・
その時に訪ねてきたライバル会社の勧誘員に契約を取られてしまった。
その時Watermanは冷静に、【この萬年筆が悪いのではなく、不完全な機構が悪いのだ。では自分で完全な機構を作ってしまおう】と考えた。
幸いにしてWatermanは大工経験があり手先は器用。また速記術に詳しいのでインクフローのあるべき姿をイメージ出来た。
彼はまず、市場で売られている萬年筆を詳細に調べ、また、萬年筆関係の特許も調べ上げた。
その結果、ペン芯に穴があるだけではインクは出るわけではないという事実を悟り、ついに、ペン芯の機能上重要な二大原理を発見した。
★萬年筆のインクは毛細管現象で誘出されなければならない
★インクが誘出された分だけ、空気が入らなければならないこと
その結果生まれたのが、ペン芯の背筋に一本の角溝を刻りつけ、その角溝の底に2本の(後に3本)細溝(Fissures)を切り込むことを思いついた。
インクは毛細管現象で細い溝を通ってペン先先端に向かい、インクが吸い出された分だけ、空気が上の広い溝を通じて軸内に進入する理屈じゃ。
これによってコンスタントなインクフローが保証される。このアイデアは1884年に彼の名で特許を取得している。
これが近代萬年筆に繋がる最も大事な発明なのじゃ。Watermanが現代に復活したとすれば、必ず最高のペン芯を作ってくれると確信している。