この事例で紹介したように、Kugelのペンポイントは上下左右の字幅が同じになるように、平面に研摩されている。まるでコテ研ぎのように。
ただ、そのコテ状のペンポイントでもさほど書き味が悪くならないようにと、左右のペン先の動きを良くしている。
エラを拡げたり、ハート穴から前を薄くしたりという工夫をしているはずだ。
実は、拙者はKugelの書き味がさほど好きでは無かったので、Kugelの秘密については研究不足。
とにかく弾力があり、筆圧をかけるとペン先がガバっと開くなどと言われていた。たしかにそうなのだが、その理由については調べていない。
一度、趣味文の分解講座でやっていても良かったな。
今回の依頼品はMontblanc No.342 Gじゃ。体は大きいがペンは小さいのが心地良いという方の持ち物。
これは初期のモデルでフラットフィーダー付き。黒軸は、1951年に1年間だけ作られた。
特徴は茶色のインク窓。翌年からはブルーのインク窓に変わった。同時期に輸出用として作られた赤軸、青軸にはインク窓はなかったはず。
非常に多くの数が出ているので、手に入りにくいことは無いが、実物を見たのは初めてじゃな。
ペン先はクーゲルのF。とてもFとは思えない大きなペンポイントじゃ。症状云々ではなくインクがなかなか出ない。
出ても不安定。そして何より書き味が悪い・・・ということ。
依頼者はWAGNERのメンバーの中では比較的ペンを立てて書く・・・というか、No.342 Gくらいの大きさだと、立ってしまうようじゃ。
手が大きいので後ろ寄りをを持つと手から外れてしまうから・・・かな?
上から見るとガチガチにスリットが詰まっているが、横顔には問題がなさそう。ペン先とペン芯の間に隙間は発生していない。
ただしスリットを拡げようとして、ペン先を上に反らせると隙間が出来そうな感じ。かなり繊細な調整になりそう・・・
またクーゲル先端の斜めに書き癖がついている部分が、依頼者の筆記角度と合っていない。
これでは腹の下段のエッジで紙を擦ることになり、たとえペン先のスリットが開いていたとしても、ガリガリとした書き味になってしまう。
まずはスリットを拡げてみた。よく見るとペン先の表面が少し荒れている。これは金磨き布でしばらく擦っていればすぐに綺麗になる。
表面の荒れというのは光の乱反射によって、実際以上におぞましく見えるもの。傷のエッジを金磨き布で丸めてやれば、綺麗な光を出してくれる。
こちらが金磨き布でゴシゴシと擦った後のペン先。スリットの広がり具合が良くわかろう。
これくらい開いてエッジを丸めた後で、ペン先を多少お辞儀させるとペン先とペン芯の間にスキマは発生しない。
こちらは、筆記角度に合わせてペンポイントを削って、仕上げる前の状態の横顔。
ペンポイント斜面の角度はそれほど変わっていないが、紙に当たる面積を増やした。これによって紙当たりが柔らかくなる。
拡大したのが左のが画像。エッジ処理をしていないので、この状態では許容範囲が少ない。少しでも傾きが変わればガリガリとなってしまう。
通常はこの状態は枚数が増えるので公開しないのじゃが、今回は特別。まずは角度に合わせて削りまくってからエッジ調整や微調整に入るのじゃ。
いくらペーパーの上で、角度を合わせながら削ってもダメ。常に最終形を頭に描きながら、その形状に合わせて削るのじゃ。
微調整の連続では全体として良い書き味の調整は出来ない。これが何本も犠牲者を出した後に到達した極意じゃ。
【部分最適を積み重ねても全体最適にはならない】・・・心せよ。
こちらが微調整が終わった状態。少しだけお辞儀させているので、前よりは多少弾力はある。
書いてみると・・・クーゲル独特の書き味が復活した!水田の泥の中を歩いているような・・・紙に絡まるような書き味。
非常に好みが分かれるが、これこそがクーゲルじゃ。
【沢尻エリカ】的な書き味ではなく、デビュー当時の【大竹しのぶ】のような【ねっとりとした書き味】といえばわかりやすいかな?(なわけないか・・・)
ブドウ畑の書き味ではなく、水田の書き味なのじゃ・・・ああ、難しい!
こちらが拡大図。エッジを丸めたため、腹が引っかからなくなっている。
No.14Xシリーズのクーゲルは多少腹を紙に引っかかるくらいに調整した方が意外性があっておもしろいが、No.342クラスでは【水田風】の書き味の方が好きじゃ。
ここで紹介するのは、すべからく【生贄】なので、まずは拙者の好みの書き味にするのが基本。この書き味は好きじゃ! 最近、No.342に嵌っている。