インクをペン芯にためる機能が弱いので、インクがすぐに漏れてしまったはず。特に加圧が不十分な飛行機に乗ったりしたら悲惨な状態に陥っただろう。
一方で、紙の質が上がった現在では、インクがドバドバ出ても滲まない紙も出てきている。
インクドバドバを実現するには、スリットが常に開いていることが条件。そして空気の通り道が十分に広いこと。
従って設計の古いペン芯などは、現代に対応するため、ペン芯後端部を一部切断して空気が入りやすく加工していた例もある。
拙者が教えてもらったのは、長崎の万年筆病院の先代。M800であっても必ずペン芯最後端を細工されていた。
あと今では首軸を緩めるのにお湯は使わない。お湯を使うとセルロイドが変色したり、膨れたりするからだ。
今では、温度調節付きのヒートガンを使っている。これだとお湯(100度)よりも高い温度でも変色しない。100度のお湯に浸けたら一巻の終わりじゃ!
こうやって修理の記録をBlogに残していたおかげで、たまに修理するときに参考に出来る。
そして、今なら考はやらないな・・・と考える時にこそ、その技術が自分の物になる。
このBlogは、さしずめ拙者の研究ノートのような物だろう。内容はSTAP細胞の研究ノート以下だがな。

キャップが痩せて嵌り辛いのが唯一の弱点と言ってよかろう。
依頼内容は、このペン先の形状を変えないで、筆記角度30度で書いてもヌラヌラと書けるようにとのこと。
WAGNERでは、依頼者も含めてVintage No.146の愛好者は、筆圧が極端に低く、ペンを寝かせて書く人がほとんどじゃ。

開高健モデルのNo.149には【エッジの立ったM】というのがあり、これが非常に美しい。
このOBBのペン先も非の打ち所のない美しさじゃ。ただし筆記するにはスリットが詰まりすぎている。これではヌラヌラとはいかないな・・・

ただヌラヌラを望むなら、多少位置関係を修正した方がよい。ペン先をほんの少し前かな。
誤解している人もまだまだ多いので注意しておくが、ヌラヌラというのは、ペン先の丸めや、ラッピングフィルムで研磨する事で達成出来る物ではない。
ヌラヌラはインクフローを増やす事で達成する。ただし萬年筆は元々ヌラヌラで書くような設計にはなっていない。
すなわちヌラヌラ化は、萬年筆設計者から見れば改悪なのじゃ。車高を上げたり、違法な燃料を入れたりする行為に近い。
もし1950年代にインクがヌラヌラの萬年筆を作っていたとしても、そのインクフローを受け止められるだけの紙は非常に少なかったはず。
わら半紙に中字の萬年筆で字を書くなんて考えられなかったのじゃ。

それを約一分間続ける。その後で首軸を厚いゴム板で挟んで左にそっと回すと外れる。
たまに接着剤を使っているものがあるが、その場合は全ての作業をあきらめるのじゃ。壊しては元も子もない。

どうやらソケット方式ではなく、直接首軸にペン先とペン芯を突っ込むタイプらしい。
フラットフィードなので50年代初期モデルのはずだが、こういう首軸もあったのじゃな。
おもしろい!まさかNo.246とかから移植したのではあるまいな・・・もっとも拙者はNo.246には触った事もないので、どういう首軸の構造なのかは知らないが・・・
ソケット方式ならば、胴体を捻って外さなくとも、ソケット部分だけ外せばすむ。一般にVintage No.146の場合は、ペン先調整だけならソケット外し。
ピストンのコルク交換なら首軸外し。テレスコープの清掃や修理には尻軸外しを行う。
コルク交換に尻軸外しをしてもコルクを軸内に入れた段階で、内部のねじ山でコルクがボロボロになってしまう事が多いので、首軸が外せない場合以外はやらないのが無難。

むやみに充填剤や接着剤を使うと後々の修理が出来なくなる。手の汚れは洗えば落ちるが、接着剤でとめた首軸では、コルク交換が出来ない。
すなわち、接着剤を使った段階で【3年殺し】の技をかけるようなもの!絶対に接着剤を使わないようにな。

Vintage MontblancのBBやOBBはイタリックに近い研ぎで、ペンポイントの厚みは薄い。従って横細縦太の文字しか書けない。
スタブやミュージックの字形が好きな人以外は、VintageのBB/BBB/OBB/OBBBなどに手を出さない方がよい。
Vintageの独逸製萬年筆の世界では、B以上はペンポイントが薄いと考えて間違いない。縦横ともに太い【宛名書きに適した線幅】は得られないのじゃ。

それらを考えながらペン芯を眺めると非常におもしろい。このペン芯では、タンクからペン芯の溝へ至るまでの通路の溝が太すぎる。
毛細管の働きが弱いので、空気をじゃんじゃん入れて、インクを出すような工夫がされている。

それを針で押すと綺麗な穴が空いた。おそらくはこれでインクフローを少しでも良くしようとしていたのだろう。それにしても凝ったペン芯!

上の画像で紹介した上下に貫通した穴はインクの通り道にあるので、空気は通れない事がわかった・・・
やはりインクをペン芯上側に回す部分の隙間が太すぎて毛細管現象が強く働かないので上下直結の穴を作ったのだろう。

インクフローを良くするために多少の反則技を使った。それはペン芯とペン先との間に、ごくわずかの隙間をあける事。
筆圧の低い人の調整のみに使える技じゃ、筆圧が低いので、筆圧でペン先とペン芯が大きく離れてインクが途切れる事はない。
それならば、ペン先とペン芯との隙間にもインクを保持すれば、書き出しで使えるインク量は増える。
筆圧の低い人の書き出し筆圧は、押さえているのか引いているのかわからないほど低い。これで書き出しからヌラヌラ・・・は難しい!・・・なら反則技じゃ!
フレッド・ブラッシーの反則技としては【噛みつき】が有名だが、決め技ではなかった。
決める際にはレフリーの死角をついての【金蹴り】から、神業的なひねりをきかせた【ネックブリーカー・ドロップ】を用いた。非常な親日家で紳士。奥様も日本人だった。

いわば、これが拙者の【ネックブリーカードロップ】じゃ。【噛みつき】や【金蹴り】の要素も多少はあるがな・・・