2024年10月02日

〔 【 Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱 】 調整報告 〕アーカイブ

Parker 75 は初期モデル以外には大きな弱点があった。

胴軸が金属製にもかかわらず首軸が樹脂製ということ。すなわちインクを補充して胴軸に首軸をねじ込む度に、少しずつ首軸側が削られていく。

首軸側の樹脂にネジが切られていくのだ。そのうち、首軸が胴軸内に入っていき、キャップがパチンと締まらなくなる。

もう一点は、インクで首軸の樹脂が犯され収縮してしまうこと。Parker 45ほどではないが、Parker 75でも収縮した首軸をよくみかけた。

ひょっとするとそのインクによる収縮を回避するためにペンマンインクを開発したのかもしれない。

たしかにペンマンインクを入れている限りはParker 75の首軸の収縮はなかったが、他社製万年筆には甚大な被害を及ぼした。

★Montblancの限定品を1ヶ月ペンマンインクに浸けておくとぐにゃぐにゃになった。

★Auroraの吸入式に入れると、インク窓のところが変色し、しまいにはパカっと割れた。

★インクを入れたまま1ヶ月放置したら、ペンポイントのところにカビのような大きな固まりが出来た。

等、不具合だらけ。pHは中性を示していたが、色素を溶かす溶剤に問題があったようだ。

おかげでペンマンインクは市場から姿を消し、ソウルペンショーでGreenを入手した時にはオークションで60,000₩だった。

どんなにインクの色が増えても、ペンマンインクの紅と緑と茶色以上に魅力的な色には出会えない。そう、毒婦のように魅力的だった。



2007-11-19 01今回の依頼人は、あの【ダメ出しの女王】。彼女が持ち込む物は、いつもかなりの難物。

今回はParker 75のわりと古いモデル。フラットトップだが、首軸の痩せが非常に少ない。

Parker 75の弱点は首軸の樹脂が痩せてしまうこと。

軸は純銀で丈夫、ペン先もユニット式で丈夫な上に、ニブ単体でも大量に販売されたので、中古市場にいくらでもある。ところが完全な首軸が無い。

オークションでは程度の良い首軸ユニットは、程度の良くない首軸がついた純銀のParker 75全体よりも高くなることもしばしばあるほど。

程度の良い首軸はもはや宝じゃ。インクを入れて使わなければ劣化して痩せる事は無いようなので、コレクションにするなら絶対にインクを入れない事じゃな。


2007-11-19 02さて依頼事項じゃが・・・左の極細のペン先の書き味を上げて欲しいとのこと。インクは出ないし、ひっかかる・・・これを直して!ということじゃ。

これくらい細ければ引っかからない方がおかしい。いわゆる無理難題というやつじゃ。しかもこいつは、XFの中でも特に細いのではないかな?


2007-11-19 03横から見ても、金属部分に腐食が無い。相当大事に使われたか、使われていなかったじゃろう。

これだけガッチリとペン芯ユニットの食い込んでいると抜くのは困難じゃ。

適当な調整して【ダメ出し】を何度もくらうくらいなら、もっと程度の良いXFと交換してしまおう。

女王が重視するのは、書き味であって、萬年筆の各部品の時代の整合性ではないからな。


2007-11-19 04そこで部品箱に転がっていたXFを拾い集めてみたのが左の画像。極細とはいえ、ペンポイントの大きさにはずいぶんと差がある。

この中では左から二番目が比較的ペンポイントが大きそう!これと取り替えしまおう・・・!


2007-11-19 05というわけで、元々のXFと取り替えるXFを並べてみた。表側から見た画像が左。上がオリジナルで下が交換用のもの。

ペン芯の構造はまったく同じだが、ペン先
の形状は大きく異なっている。

オリジナルのニブはペンポイント周辺からさらに角度を付けて削っているように見える。それに対して代替用はペンポイントまでストレートな斜面となっている。


2007-11-19 06今度は上の画像とは上下が逆。下がオリジナルのペン先で、ペン芯には【63】という番号が入っている。これはXFを意味するらしい。

代替品の方には直接【XF】とアルファベットで刻印してある。昔はペン先のバリエーションが非常に多かったので番号でないと表現できなかったのであろうな。

では・・・ということで、一番ペンポイントが大きなペン先を取り出してルーペで眺めてみたのじゃが・・・とうてい【女王】を満足させられる研ぎ上げる自信がない・・・


2007-11-19 07ということで、プリミア用の18金ペン先を使うことにした。これは以前、久保工業所で何個か手に入れた中の一個。

XF】や【63】とは比べものにならないほど大きなペンポイントがついている。

プリミアParker 75の高級版として出したので、あまり冒険をしなかった。ただ、高級な材質を使った割には首軸が安っぽかった。

Parker 75
の弱点を解消する為に、首軸の素材を変えたのだろうが、これが敗因。Parker 75ならパチン!と閉まるキャップが、プスン・・という気持ち悪い感触で閉まる。

これでは熱狂的なParker 75ファンの心はつなぎ止められない。あわててDuofoldの復刻版を市場に投入したというわけじゃ。

プリミアですばらしいのはペン先。14金ペン先と18金ペン先を比べると、通常は14金ペン先の方が良いものだが、プリミア(18K)に限ってはParker 75(14K)より良いペン先!

Parker 75
グリグリというような書き味は解消されて、フェザータッチに近づいている。


2007-11-19 08ということで、この18K-Bのペン先を装着した。なかなかどうしてよく似合っている。

Parker 75の首軸は微妙な個体差があり、予備のペン先ユニットを差し込んでも、ユルユルで使えないこともあるが、今回は見事に決まった!


2007-11-19 09さてペン先である。相手が【女王】であるから、当然調整は必要。

気をつけるべきは【女王】は書き味確認の時に、【文章を書く時には絶対に傾けない角度にペン先を傾けての書き味チェックが大好き】ということじゃ。

従って、書き味が固まってきた人の調整では満足できなくなっている。そこで調整したかどうかわからない調整にした。

スリットが開いている事に気づかなければ調整していないと思うかも知れない。いや、きっとそう思うはず。それでいて【なかなか良いじゃない】と言わせる調整にした。

ただし、そこはダメ出しの女王】のこと、そう簡単には満足しない。そういう時には対抗策として、自分で調整してもらう事にしている。

拙者の目の前で【女王】が四苦八苦しているうちに拙者は【王子】とランチに行って、帰ってみたらペンポイントは危機一髪!という状態が再現するかも知れない。

今からワクワクじゃ!
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
>どんなにインクの色が増えても、ペンマンインクの紅と緑と茶色以上に魅力的な色には出会えない。
そう、毒婦のように魅力的だった。
'
紅と緑と茶色は使ったことがありませんが、'SAPPHIRE'は私にとって
「魔性の女(femme fatal)」との出会いのようなインクでした。


Parker75やVPのnib codeはこちら。

https://www.parker75.com/Reference/Nibs/Nibs.htm

https://www.parker75.com/Reference/Nibs/Nib_guide.htm

Posted by Mont Peli at 2024年10月04日 07:26