TAKUYAの【Close to you】の原型となった【イカ太郎】は当時の拙者が考えた究極のペンケース。
嵩張らない革製ペンケースで、ジッパー開閉式。しかも尻軸も天冠もジッパーに絶対に当たらない。
なおかつ隣の万年筆とも接触しないし、No.149からM300までならどのような太さでもピシっと収納できる。
軸を固定するベルトも革製で、値段は2万円程度。もちろん全て手縫い!
TAKUYAさんが、まだ趣味の延長上で作っていたから出来た価格で、いまなら10万円でも厳しいかも?もちろん垢抜けはするだろうがな。
この【イカ太郎】の原型は、金ペン堂さんが6,000円で販売していた革製ペンケース。
非常に軽くて良かったのだが、天冠と尻軸が開け閉めする際に必ずジッパーで擦られる。
それがイヤで、そのペンケースをTAKUYAさんに渡して改良型を作ってもらったのだ。
まだ、万年筆談話室引越の時の荷物の中に入っているはずだ。インクを入れた万年筆を胸ポケットに入れて使わなくなってから眠ったままだ。
たまには引っ張り出して使ってみようかな?
今回はペンケースと刻印機の紹介。
左が当時のPelikanのペンケース。
モデル名に12Sとか、33Rとかあるが、どうやらそれぞれの桁に意味があるようだ。
一番左の数字が【1】の物は、ケースの縁に金属枠が付いていない物で、【3】のものは金属枠付き。
左から2番目の数字が【2】の物は2本挿しで、【3】の物は3本挿し。
右端のアルファベットは皮の文様を示すようだ。【S】はSaffian、【K】はKroka、【R】はRindbox。
絵柄は左図の左端に出ている。それぞれ3〜5種類の色が準備されていたようだ。
Pelikan 120が5.5DMの時代に一番安い【12S】でも4.3DMで、一番高価な33Rともなれば6.3DM。
作りの粗末さから考えれば、驚異的に値段が高いように思える。
実際、拙者も何個かは購入したことがあるが、革質の悪さ、染色の下品さ、あまりに小さすぎて・・・
ジッパーで天冠や尻軸を傷つける可能性があること、さらには、ゴムで軸を固定する方式などに辟易してしまった。
ゴム製バンドで萬年筆を固定する方式のペンケースは絶対に使わない方がよい。間違ってエボナイト製の軸を入れると軸がバンドと同化する!
以前、Pilot 75【エボナイト製軸に漆塗り】を米国製の44本入りペンケースに入れて保存していた。数ヶ月後に取り出してみると、軸の漆部分が凸凹に・・・
ルーペでよく見ると、ペンケースのゴム製バンドと同じ模様に変形している。ギャー!
エボナイトはゴムと硫黄を混ぜて作るので、実はゴム製品と密着させると危険!ということは知っていた。
だが漆を塗ってあれば良いかな?と思ったのが大失敗。漆は呼吸できる。
ということは水分は通さなくても、エボナイト内の硫黄分をゴムバンドが吸収し、ゴムが溶け出して漆表面に付着したのだろう。
削ろうとすれば漆を剥がしてしまう危険がある!
それ以降、しかたなくゴム製バンドのケースに保存する際には、ゴム製バンドの内側に紙を挟んで、その下に萬年筆を挿し込むようにしている。
このペンケースは素材は貧弱だし、作りも悪い。またジッパーもスムーズには動かない。
萬年筆は超一流だが、ペンケースは最低!コレクション目的なら良いが、実用には大きな危険が伴うので止めた方が良い。
このPelikanのペンケースで痛い目(尻軸にジッパー傷)にあったのを教訓にしてTAKUYAの【イカ太郎】を作ってもらった。
今はモデルチェンジして、【Close to you】になっているが、ここで紹介したPelikanの数本挿しの流れの究極の姿、いわば【天竺】にあるのが【Close to you】だと考えている。
当時の万年筆の価格とミシン縫いの酷いペンケースの価格比と、現状のPelikan定番品の価格とTAKUYAの手縫いペンケースの価格比を比較すれば・・・
如何に【Close to you】がお値打ちかわかる。
【萬年筆に絶対にジッパー傷を付けない】ジッパー式のペンケースこそが、拙者の考える究極のペンケースなのじゃ。
ペンケースは上着の左側内ポケットから取り出してこそ妙味がある。いわば鞘から刀を抜く感じでペンケースをゆっくりと取り出す。
そして一息ついてジッパーを開け、どのペンを使うべきか考え、おもむろに一本引っ張り出してキャップを挿す・・・
その動作は【太極拳】の舞の様に優雅で美しい・・・はずじゃ・・・見たことないがな (^o^)
こちらは、おそらくは軸にNameを彫るための刻印機。
【6】の部分の筆記体の文字枠に合わせてレバーを動かせば、刻印用のドリルが電動で回りながら軸に小さな文字を彫っていくのだろう。
日本では彫刻刀で彫るのが一般的だったが、海外では機械に頼ったようじゃ。
漢字の場合は直線だけで表現できるが、欧米文字は曲線が命なので、早くから電動のName彫り機器が進歩していたのであろう。
値段は415DM。14金無垢のPelikan 700NNの定価が190DMだったことを考えれば、ものすごく高い。今なら量産すれば5万円もしないだろうに。
その昔、製品価格に占める原材料費が高く職人の工賃は安かった。この当時は、加工機器の償却費が一番高かったかも知れない。
そして今は、加工の人件費が一番高い時代。
加工費を安くするために、海外生産にシフトするか、身近な腕の良い職人に頼むか・・・もし身近にセンスの良い職人がいたら迷わず依頼すべき。
職人が趣味の延長で細工をしてくれている間に頼むことじゃ。趣味が仕事になったとき、作品から情念が消えてしまう。
逆に職人に情念が入りやすい注文を出し続ける事が情念のある作品を入手出来るコツかもしれんな!