自社で製造した品を自社だけで売る場合には、不具合の隠蔽が起こりやすいというような内容の記事だ。
なるほど、製造と販売を分けていれば、不正を防止しやすいというのは事実だろう。
日本の製造業では、たいてい製造部門と営業部門とは仲が悪いようだ。
営業部門は出来るだけ売上が多くなうように、値引きしてでもたくさん売ろうとする。そのために、製造部門からの仕入価格を下げさせようとする。
一方で製造部門は、部門内利益を多くするために、営業部門に売る単価を上げようとする。
万年筆業界に例えれば、企画部門と営業部門は、出来るだけ販売店のニーズにこたえるために、軸の種類やペン先バリエーションを増やそうとする。
製造部門は少ない人件費で出来るだけ多くの本数を製造したいので、モデル数もペン先種類も減らしたい。
製造部門が強ければ顧客は離れ、営業部門が強ければ欠品が多くなる。様はそこのバランスをどう取るかだろう。
日本の万年筆企業はペン先も胴体もインクも自社生産したがっているが、海外企業は割り切っているようだ。
自社内に出来るだけ製造機能をかかえないことが利益の根源。代表が、自ら日本第4の万年筆メーカーと言っているワンチャーだろう。
軸もペン先も社外で調達する場合が多く、品質も安定している。
さて、今後どうなっていくのかなぁ・・・
他山の石について語った その58
この章が書かれたのは1935年6月14日。Waterman社が創立してから51年目にあたる。
渡部氏は考えた・・・世間には50年はおろか、数年で潰れてしまう会社・商店は少なくない。
あの店の主人は商策に秀でているとか、あの番頭は商才に長けているとかいっても、それらは小手先の問題であって、小乗的な事に過ぎない。
もっと根本的なものがなければ50年の事業は継続できない。Waterman社には、その根本的な精神というものがあるに違いない!
そこで、それを探るべくWaterman社に関して、いろいろ調べていたようじゃ。
過去に出てくるWaterman社に関する記述を見ても、ParkerやSheafferに対する表現とは、趣を異にしている。
ParkerやSheafferに対しては近所の腕白仲間(ライバル)、Waterman社に対しては自分の父親に対して持ちやすい【憧れと秘めたライバル心】を表現している。
ある日、渡部氏が古い【ペン・プロフィット】というWaterman社の雑誌を読んでいて膝を打った。
そこには1925年1月12日に、当時のWaterman社の社長だったエフ・デー・ウォーターマン氏が営業会議でなした演説(スピーチ)が掲載されていた。
それを読んで渡部氏は痛く共感したのじゃ。
その内容に共感すると同時に、それがパイロットでいつも言っている事と同一であったことで、非常に愉快に感じたそうじゃ。
【物の真髄というものは、洋の東西、人種の如何を問わず、古今を通じて共通不変のものであることを今更のように感得いたした】と書かれている。
さらには【まるで和田前専務(当時のパイロットは専務制なので、専務が今で言う社長の事)の演説でも筆記しているような気がしてなりません】と追記してある。
エフ・デー・ウォーターマン氏のスピーチに集まったのは、米国太平洋岸地方、カナダ地方、テキサス地方、ニューイングランド地方、その他主たる地域から総勢64名とか。
全社員が来たわけではなく、それぞれの営業所の代表だけであろう。
現在の日本で発生している問題とも絡むので、多少長めに引用してみよう。表現は現代風にアレンジする。
【私がありのままの気持ちで、なんのお世辞もなく言えることは、諸君が一人残らず真に信頼に値する方々であるということです。
私どもの集団には、故意に顧客の信頼を裏切る者は一人もいないというのが、私の誇りです。】
【私どもは、その場限りの虚言を並べて多くの注文をもらうよりも、たとえ注文は取り逃がしても正直な商人でなければなりません。これは当社伝統の営業精神なのです。】
【この営業精神は、私が未だ年少で、市内の注文取りをしていた頃に、創業者である父のエル・イー・ウォーターマンから口癖のように言われたことです。
現在はもちろん、社業のあらん限り、いつまでも変わることなど無いのです。】
【嘘で注文を取るくらいなら、いっそ注文など取らぬ方がましです。嘘も方便とか申しますが、当社においては決して使ってはならない言葉です。】
【近年、いたずらに誇大な宣伝をする製造業( Parker ? )が大変多くなっており、製作の実情に疎く、品質の鑑別に暗い商人が・・・
ともするとこの誇大宣伝に引きずられて酷い商品を仕入れがちになっています。
こういう会社のセールスマンが歓迎されるのは初回だけのことで、二度目からは相手にされないでしょう。】
【販売店の利益は、我が社にとっても利益であるということを、いつも忘れてはなりません。販売店が立ちゆかぬ時は、必ず我が社も立ちゆかぬものです。
従って諸君は、どこまでも販売店第一主義で進んでください】
という内容じゃ。これは実はPilotの方針とは多少違う。Pilotでは販売店が満足し、購入した人が満足し、Pilotが満足するというのがベストと考えていた。
Waterman社には最終顧客の視点が書かれていないが、それは製品品質ということで代表されているのであろう。
製造者、販売者、顧客というこの三者がいてこそ、製造者責任が果たされるのかも知れない。
昨今の偽装問題を見ると、製造と販売を同時に行っている会社が多い。この場合、製造日を偽造するということが出来る。
製造、販売が別会社であれば、理論上改竄のしようがない。販売する人が作るから改竄が容易に出来てしまう。そして、そういう企業は社業を長らえる事は出来ない・・・
やはり【正直は最善の戦略なり】じゃな。