あまり需要が無いので、日本で作っているメーカーは無いはず。
すなわち、海外から輸入することになるのだが、サイズが独特の番号表示なので、内径がわからず、多数購入した中から選ぶしか無い。
送料も馬鹿にならず、サックと送料とで、本体の価格を上回ることもしばしば。
一時はDELTAもサック式万年筆を作っていたが、ゴムサックは劣化が激しく、すぐに弾力を失ってしまう。
そこで、ゴムサックの内部に、シリコンサックの外径の細い物を挿入し、反発力だけを利用する方法を考えてみた。
シリコンサックは首軸に接着せず、内部に入れておくだけ。
これが意外なほど効果的なので、劣化し始めたくらいのゴムサックもしっかりと生かしてくれる。お試しあれ・・・絶賛するわけではないのだがな。

今回も通常なら埋葬されていそうな名品を持ち込んでくれた。嬉しい!
なんと丸善アテナ萬年筆のセルロイド軸じゃ。拙者は初めて遭遇した。

ちょっと笑えるのは切り割りがハート穴を突き抜けて入っていること。
戦後なら出荷検品の段階ではねられるはずだが、まだそのような考えが弱かった時代だったのかも知れない。ま、ルーペがなければ見えないだろうが・・・

また相当強くペン先のスリットが詰まっている。これはペンポイントが真っ直ぐであっても満足にインクは出ないだろうな。
この曲がりを直す方法はこちらと同じ道具を使う。曲がった面を下にして、内側を割り箸の先で押さえつけて曲がりを直す。
ホンの数秒の技じゃ。これまでに何本も曲がりを直したおかげで、ここ何年間も失敗はない。
それまではほとんど失敗していた・・・道具とノウハウとコツと多少の器用さがあれば良い。
拙者が小学生の時、成績は5段階評価。オール5に一番近かった時は、一科目だけ3であとは全て5。その3は図画工作だったので、拙者とて器用な方ではない。
経験は人を〔その分野では〕器用にするものじゃ。

驚いたことに、表にはくっきりと見えるハート穴を通り過ぎた切れ込みが裏側では見えない。
ひょっとすると、切り割りはペンポイント側からではなく、上からやっていたのかな? 不思議じゃ!
蛇足だが、現在の丸善は国産三社とうまいお付き合いをしている。ATHENA復刻萬年筆や檸檬はパイロットに発注。
マイカルタなどはセーラーへ、そしてアテナインキはプラチナへ発注しているらしい。
等距離外交は影響力の大きな販売店としては最高の戦略。萬年筆文化を担おうという心意気さえ感じてしまう。

ブルーブラックと思われるインクのカスがスリットにびっしりと詰まり、同時にスリット外側にもカスが盛り上がっていた。
それらを丁寧にスキマゲージで擦り落とし、最後にロットリング洗浄液をアルコールランプにかけ、多少ペン芯を煮るとインクの色が落ちて下側画像のようになる。
真似する必要は全くない・・・

製造されてから何十年も経過しているのに、ペン先はまったく劣化していない。14金の強さを思い知らされた感じじゃ。

左図は腐ったサックを綺麗に取り除いた状態。これに新しいゴムサックをしかるべき長さに切り、サックセメントで固定する。
なを、レバーフィラーの内部機構は修理不能なので、J−Barと呼ばれるレバーフィラー用バネを試してみるとピッタリフィット!これで完璧に修理が出来る!

今回は久しぶりだったので、J−Barをどこに保存してあったか捜し回った・・・ また軸を磨いて綺麗にするのに時間がかかった。
昔のものは模様は綺麗だが丈夫ではない。当時のペリカンとは製造技術のレベルが違うと感じた。もちろん価格もはるかに安かったのだろうが・・・

ペンポイントの削りにも破綻はない。昔は相当長時間かけてペンポイントを研いでいたのじゃろう。
調整しおわったペンで書いてみると、日本語で重要な、ハネ、ハライが実にうまく表現できる。現在のペン先とは設計思想が違うようじゃ。

こういうペン先を現代のOMASのような軽い軸に装着したら、どれほど書き味が良いだろう・・・
金ペンは蘇生することが出来る。ただし蘇生にはノウハウ以外にも部品が必要。
物を修理して使う文化を放棄した日本には、そういった部品はない。こればかりは海外、特に、米国に頼るしかないのが残念じゃ。