2024年12月29日

〔 【 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 】 調整報告 〕アーカイブ

この記事には現在に至るまで不変の拙者のポリシーと、かなり恣意的な発言が混在している。

本音;

★WAGNER会員は、書き味の良くなった万年筆をあまり愛用せず早い機会に中古市場に回して欲しい。それこそが万年筆文化醸成にとって最大の貢献なのじゃ。

★調整の出来具合は(基本的には)調整にかける時間に比例するのでな。


恣意的発言;

また書き味の出来は価格見合いということもある。1万円の万年筆をいくら調整しても、10万円の万年筆を調整したものには、(基本的には)勝てない。



後者は意図的に値段が高い万年筆の方が書き味の幅が大きいので、そちらを購入させて万年筆業界を活性化させようという想いが入っている。

業界がある程度盛り上がり、SNSが発達した現在では不必要で
半分以上は間違った発言だがな(*^O^*)





2008-01-14 01今回の生贄はMontblanc No.342の緑軸。最近ではめったにオークションに出て来なくなった。綺麗な緑色で、ボディの状態も非常によい。

これほど状態の良いNo.342であれれば、おそらくは売れ残り状態でデッドストックになっていたか、コレクターの手で大切に保存されていたかであろう。


2008-01-14 02ペン先は元々はBじゃ。それを以前の所有者が細字に変えようとして、素人技で削って失敗した物が、中古市場へ流れたと考えられる。

パッと見ても気付かないかもしれないが、ペン先の
斜面のカーブが不自然!滑らかなカーブではなく、途中で歪んでいる。

先端に近くなると急に鈍角になっている。この調整はあり得ない。通常の細字であれば先端に行くほど鋭角になっているはず。


2008-01-14 03ペン先先端部分の拡大図を見ると、どのあたりから斜めに削ったかがわかろう。

しかも曲面を削るヤスリではなく、平面ヤスリで削っている。素人技以外の何物でもない。

ついでに言えば、スリットが詰まりすぎている。しかも先端部だけが、強烈に左右から押しつけられたようになっている。

これではインクはかすかにしか出ない。困り果てた以前の所有者が中古市場に流したと思われる。

こういうのが中古市場に流れると、WAGNER会員以外はペンクリに頼ることになる。最近のペンクリの活況は、中古万年筆の流通が活発化したせいかもしれない。

先週末に行われたセーラーのペンクリでは、川口さんは2日間で150本調整されたと聞いた。さすがにプロは凄いな・・・

拙者は昨日、10時から16時までに23本受け
付けて6本を持ち帰り、実質5時間17本の調整で、本日は体の具合が悪い。肩はパンパンだし、首も張っているという状態・・・


2008-01-14 04ペン先先端を斜め下から見た画像じゃ。如何に酷い削りかわかろう。ペン先の両端をヤスリでガリガリ削ったうえ、先端部も真っ直ぐ斜めに削ってある。

これはサンドペーパーで削ったとしか思えない。

丸めなんて概念を持たない人物の削りじゃ!こういうとんでもない調整に出会うと嬉々としてしまう。

ここで直したものが、依頼者に使われるにしろ、その後中古市場に流れるにしろ、一本の万年筆の寿命を延ばすのに貢献出来る事は間違いない。

それによって書きやすい万年筆に出会った人が万年筆を好きになってくれることが市場を盛り上げることになる。

WAGNER会員は、書き味の良くなった万年筆をあまり愛用せず早い機会に中古市場に回して欲しい。それこそが万年筆文化醸成にとって最大の貢献なのじゃ。


2008-01-14 05こちらは完全分解した図。拙者が預かって調整する場合には、必ず完全分解して清掃している。

従って清掃も希望の方は、ペンクリ時点でそう申し出て欲しい。ペンクリでの調整よりも、一段上の微調整も可能。

調整の出来具合は(基本的には)調整にかける時間に比例するのでな。


2008-01-14 06こちらが調整前のペン先。スリットは詰まっている上に、稜線も歪んでいる。せっかくのカワイイNo.342のフォルムが台無しじゃ。

そこで、円筒形の発泡スチロールに耐水ペーパーを両面テープで貼り付けたもので、ペン先の稜線を綺麗に削り取った上で、スリットを拡げる。


2008-01-14 07そうすると左画像のように美しい形状になる。ただしこの段階ではペンポイントの研磨は行っていない。

このままの状態ではペンポイントが尖りすぎていて紙にひっかかってしまう。

また依頼者は、低筆圧ぞろいのWAGNER会員の中でも、三本の指に入る低筆圧筆記者。ということはペン先を寝かせて書く。

従って3つ上の画像のように、ペンポイントの一番下のエッジが立っていては筆記出来ない。

ここから魔法が始まって・・・終わった。


2008-01-14 08首軸に取り付けたペン先の画像が左。上の研磨前の画像と比べると、ペンポイントの長さが短くなっているのがわかろう。

これによって桁
違いにソフトなタッチに変貌する。ペン先の柔らかさでいったら、この時代のMonte RosaNo.342は、コストパーフォマンス最高であろう。


2008-01-14 09こちらは横顔。同じ時代のPelikanと比べると、ペン先先端のお辞儀の具合が極めて少ない。これがMontblancとPelikanの書き味の差を作っている。

拙者は、この時代のMontblancの書き味が一番好き!しかし内部機構に関してはPelikanの方がはるかに安全じゃ。

金属部品が無いからな。このNo.342ですら、ピストンの軸内部には金属の芯を使っている・・・

従って拙者はPelikanをMontblancの書き味に調整するのが、一番の得意技じゃ。

あまりに時間がかかるので、他人用の調整には使わないがな。興味があれば集団見合いの機会(ペントレ)を待ちなされ。


2008-01-14 10こちらが拡大図。寝かせて書く人用の調整は、ペンポイントの一番下の引っ掛かりを取り除くこと。

特に、小文字の【】の最後の右に跳ね上げる部分や、【】の最後のハライなどで確認すると、エッジ調整の出来が確認しやすい。

注意点は、普段使わない角度のハライを気に病んでもしかたないということ。

調整とは全方位で出来る物ではなく、当人の90%の筆記に適したものでしかないのじゃ。

10%は我慢する勇気を持たないと常に筆記具に不満を持ってしまう。

また書き味の出来は価格見合いということもある。1万円の万年筆をいくら調整しても、10万円の万年筆を調整したものには、(基本的には)勝てない。

好みの問題を別にすれば、50万円の車が、乗りごこちで2000万円の車に勝てないのといっしょじゃ。その当たりは割り切って、不満があれば高価な万年筆にシフトした方が良い。
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック