2025年01月03日

〔 【 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難 】調整報告 〕アーカイブ

この記事で書いた、カスタマイズ旋風だが、(当時は予想だにしなかった)Montblancが先頭を切って始めた。

最初は細々と特殊研磨や特殊幅広ペン先を始めたが、今日では多種多様な形状のペン先のオプションが出来るようになった。

以前から、〔Pelikanは独逸的で、Montblancは伊太利亜的だ〕と述べてきたが、失敗を恐れて設計変更を極力しないPelikanに対し・・・

Montblancは失敗も多いが、まったく冒険心を失わないで果敢にチャレンジしている。

プラチナのスリップシールをぱくったりもしたが、圧倒的技術力でオリジナルよりも精度の高い物を提供するので文句も言えまい。

成功は金銭的メリットを会社のもたらすだけだが、失敗は教訓とバーニングスピリットをもたらし、新たなチャレンジを産む。

そういうチャレンジ精神を応援する企業文化が現在のMontblancの栄光を支えているのだろう。

どことは言わないが失敗を責める(チャレンジしない)文化では技術は進歩しない。

失敗を恐れてやらない、やっていたことを止める・・・のは簡単だが、それは進歩を諦めて、生きながらえることを選ぶのと同じ。

星一徹は〔たとえドブの中でも前のめりに死にたい〕と何度も語っているが、日本人はそういう姿に惚れるんだなぁ〜

ちなみに、星一徹の言葉は、原作者の梶原一騎が小説『竜馬がゆく』にヒントを得て創作したセリフという説が有力らしい。





2008-01-16 01今回チャールズ・ディケンズを調整してみて後悔した。買っておけば良かった・・・と。

そのあまりにもキャップが重そうな形状と、【キャップが尻軸に挿してもすぐに外れる】というNo.146系に共通した特徴が頭にあって・・・

これが発売された時には)さわりもしないでパスしていた。

今回いじってみて、意外と重くないキャップと、なによりもキャップを後ろに挿すと、キャップと尻軸がびくともしない密着性にビックリ!

もう少しインクフローを良くして欲しい。ペンポイントが背開きだし・・・】とうのが依頼内容。書いてみても確かにインクが少ししか出てこない。


2008-01-16 02ペン先の状況を確認すると、ペン先のスリットは密着している。これではインクは出ない。

背開きというのは依頼者の誤解で、まったく問題はない。またペンポイントの丸めも完璧で、購入当初から、そこそこの書き味が堪能できる。

ただしスイートスポットは当然のことながら無いので、【もう少し何とかならないのかなぁ・・・】というところ。比較的小幅の調整で生き返る。


2008-01-16 03こちらは横顔。これでもかというほど、ペン芯が前にセットされているが、この位置は変更できない。

ペン芯とペン先の切れ込みによって首軸にセットする位置が決められている。

工場内でパートの人がセットする事を前提にした設計であり、少なくとも熟練した販売店の調整師が微調整する事は想定されていない。

独逸完全主義が、さらなる完全主義のマニアからは見放されてしまうという現象。営利企業としては当然の割り切りだと考えているが・・・

独逸でも車の世界ではAMGのような公認のカスタマイズ会社がある。萬年筆もその世界に到達すれば、マニア熱がさらに高まるのになぁ・・・。

知識のない萬年筆ユーザはクレーマー度が高いというのも企業の防衛的スタンスに拍車をかけている気がする。

萬年筆研究会【WAGNER】の設立目的は、自分たちの狭い世界でワイワイ楽しむ事ではなく、萬年筆文化を花開かせる事である。

その為に各メーカーに苦言を呈することもあるが、それはマニア的な利用者が日本で1万人を超えた段階で初めて身にしみるような話であって、現在の商売には関係あるまい。

ただし企業スタンスは一朝一夕では変わらない。近い将来、萬年筆業界にカスタマイズ旋風が吹き荒
れるかもしれない。

そういう日に対処できるような設計は考えておくべきだとアドバイスしたい。

なぜPelikanAuoraが日本でマニアに受け入れられるのか?ペン先がユニット化されていて、交換が素人にも出来るというのが一番の理由と考えて間違いはないのじゃ。


2008-01-16 04分解してみると、ペン芯は現行品と同じ。根元が若干細くなっているタイプ。

気のせいか、これ以前のヘミングウェイ縮小版タイプのペン芯より、若干インクフローが悪い・・・。

インクボタ落ち確率は減ったはずだが、インクフローが悪くなってはなぁ・・・マニアは喜ばない。


2008-01-16 05ペン先を見ると【2001】との刻印がある。2001年の限定品であることを示している。

実際に筆記する日本の萬年筆愛好家はペン先のバリエーションが豊富な現行ニブを使って限定品を出すPelikanの方が嬉しい。

ただし世界一の市場の米国では、Pelikanの限定品はニブが同じ事が災いして、あまり人気が無かった。

そこで最近はPelikanでも特別ニブを装着した高価な限定品を出すようになった。

Montblancとは製造ロットが一桁違うので、Pelikanの特別製ペン先の刻印料は相当原価を押し上げているであろう。


2008-01-16 06こちらは調整を行ったあとのペン先。ペンポイントの腹側には、依頼者の筆記角度でスイートスポットを作り、それを周囲に薄めるような調整を施した。

先日の定例会で、依頼者に渡したら、既に筆記角度が変わっていた。聞いてみたら、出来るだけ筆圧を低くするように癖を修正しているとか。

さいわいスイートスポットの許容範囲内だったので問題はなかった。

人様のペン先調整をする際には、相手の萬年筆利用年数から書き癖変化のブレを想定する必要がある。ただし、想定しすぎると、書き出しで掠れてしまう。

よく調整してもらったら書き出しが出ない・・・という話を聞くが、これは許容範囲を拡げすぎているからじゃ


2008-01-16 07こちらはスリットの状況の拡大図。実に良い具合に調整できた。こうやってスキャナーで確認しながら調整するとミスが起こる確率は減る。

プロと違って調整する本数が圧倒的に少ない拙者でも、そこそこの調整が出来るのは、プロセスの【見える化】をしているから。

Blogに残しているのも、自分で参照するという意味の方が大きい。簡単検索出来るインデックスを自分用に持っているのじゃ。


実際に筆記してみると、スイートスポットが付いているものはすぐわかる。

書き味が極めて上品!この書き味を一度経験すると、市販品のまま使っていくのには勇気がいる。まさに麻薬、いや、媚薬じゃ! 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック