今の書き癖に徹底的に合わせてしまうと、その書き癖を良しとして万年筆を使うようになってしまう。
そこで、スイートスポット作り込み調整を行い、スイートスポット周辺だけ極端に書き味が良く、他の部分は敢えて良くない書き味にしておく。
そうすると自然と書き味の良い部分を捜して使うようになり、自然と書き癖(捻しや倒しや筆圧)が変化していく。
このblogを書いた時点では、こういう誘導型ペン先調整をやられている調整師はいなかったし、拙者も公言はしてこなかった。
しかし、最近では、”一番書き味が良いところを捜して書きなさい。そうすればあんたの悪い癖が直せる”とか憎まれ口を叩きながら調整している。

ペン先を見ると、既に十分に調整されている。症状としては【時々インクが出ない】ということのようじゃ。
女王様からの要望にしては珍しい。だいたいどこかの角度でひっかかるというのが多い。
女王様は試し書きに慣れている。ペン先の能力を試すために、一日中試し書きをしていた事があるらしい。
従って萬年筆の弱点を発見する事に関しては天才的に鋭い感覚を持っている。その女王様が引っ掛かりを指摘しなかったと言うことは・・・
この萬年筆は引っ掛かりを発見されにくくするために、スリットを締めているはずじゃ。
スリットを締めてしまえば、引っ掛かりは発見しづらくなる。そしてインクフローが悪くなるのじゃ。

ペンポイントの形状にも破綻がない。ここ数年のMontblancのペンポイントへの力の入れ方には感心してしまう。
Montblancの総合ブランド戦略は萬年筆愛好家からは何かと批判されがちだが、どっこい萬年筆の命ともいうべきペンポイントの研ぎはすばらしさを増している。
その充実した萬年筆を生かすも殺すも店頭での接客次第。如何に商品知識を売るかが大事じゃ。まずは萬年筆を好きになって欲しいな・・・

ペンポイント近辺だけが詰まっている。こういう現象はペン先を多少お辞儀させた場合に発生しやすい。

何度も述べてきたが、萬年筆のインクは毛細管現象によってのみ供給されるものではない。筆圧によるポンプ運動でも供給される。
幸い女王様は、それほど弱い筆圧ではない。ポンプ運動を機能させるには必要十分な筆圧の持ち主じゃ。従ってスリットはもう少し拡げてインクフローを良くしよう。
その場合、せっかく閉じ調整が施されていたペンポイントが開くことによって、女王様に引っ掛かりを発見させれる確率が増えてしまう。
それに対しては、スイートスポットを作ることによって回避してみよう。

こういう小さい萬年筆用のペン芯を、エボナイトから削りだして、樹脂製と同じ性能を引き出すことは、不可能。樹脂製のペン芯だからこそ出来る複雑ペン芯じゃ。

実際にはほんの数秒で、ここまで調整できる。素材自体が柔いので、昔のように曲げても曲げても戻ってしまう・・・という心配もない。

毛細管現象は狭い場所ほど速度が速い。ただし吸入式萬年筆や、コンバーターを使う場合・・・
インク吸入が終了した時点でペン芯にはタップリとインクが含まれているので、毛細管現象でインクを素早く引っ張る必要はない。
隙間を狭くすることに血道を上げるよりも全体としてのインクフローを考えるべき。

一方が厚く、一方が薄い。従って正面から見て、上を合わせると腹が段差になり、腹を合わせると頂上が段差になるというやっかいな状態だった。
そこで頂上の高さを合わせて、腹は書き癖に合わせて、ガシガシ研磨し、スイートスポットも作っておいた。

スイートスポット無しで調整するには、相当時間がかかる。
また女王様くらい繊細は感覚を持っている人を、スイートスポット無しで調整してもお気に召しますまい。
ここでスイートスポットを入れておくことによって、今後数多くの調整師が救われるのじゃ!

No.149やNo.146では、もう少しペン芯を後退させたいな・・・と思うのだが、モーツァルトの場合には位置関係はこれで問題ない。

通常そういう場合はスイートスポットを作らず丸研ぎにする調整師の方が多いが、女王様には通用しない。
そこで敢えてスイートスポットを作り、そこから丸めていったのがこちらじゃ。スイートスポット周辺は書き味が桁違いに良いので、自然とその周辺を使うようになっていく。
そうやって時間が経過すれば縦横無尽が一点集中に変わるのではないかと期待している。